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>>03

『うぅ……頭がグラグラする』

「お前が悪いだろ」

またもや口喧嘩が始まりそうな雰囲気に、エリックが二人の間に割ってはいる。

「話が脱線していますよ。あの魔石について話をするのではないですか?」

「そうだった……悪いなつい。たしかあの魔石は欠片とか言ってたよな」

『闇神ダルク……我ら神の中でも、奴は特殊な存在だ。闇の力は何よりも強大。故に、奴は力の半分を切り離している。その力の半分が。この魔石だ』

エリックとハングの鋭い眼差しが、テーブルの上の魔石へ注がれる。
闇の中でさらに輝く闇の石。

底知れない力を感じハングは魔石の入った小箱の蓋を閉めた。

「そんな大それたもんが、なんでアフリカの遺跡にあったんだ……」

初めてあの遺跡を調べた時、この魔石はどこもなかった。
けれど、その遺跡が原因不明で全壊した後、再び訪れた時に見付けた。

もしかしたら、この石が原因で遺跡が壊れたのではないか、そう考えるとぞっとした。
欠片でこれだけ力があるなら、本体はどれだけの力を持っているというのだ。

『そうだね。おかしいな、僕の記憶が確かなら、ダルクの欠片は君とウェネストが守っていた筈だよね? だから、アルタイルにあったはずなのに、どうして地球にあるのかなぁ?』

ニコニコと、鏡の中から笑顔を向けるセティルバレイス。
その表情とは反対に、言葉にはかなりのトゲトゲしさを感じる。

自分へと向けられたわけではないのに、ハングは背中に冷や汗が流れるのを感じた。

『言い訳するつもりはない。魔石を守りきれなかったのは我に非がある。ただ一つ、言っておきたい事がある。今の兄上は、昔の兄上とは違う』

20年程前、アルタイルから神を召喚し、封印するという研究を独自でしていた男がいた。
中国で見つけられた古文書と龍神アルヴァイオをもとに封印術を作り上げたのだ。

そして、その男により召喚されたのが……ダルクの欠片を守りし片割れ、制裁神ウェネストだったのだ。

感情を持たず、常に平等に世界を見続ける役目を持つウェネスト。
しかし、未完成の封印術により彼は要らぬ感情を手に入れてしまった。
「怒り」と「憎しみ」それが今のウェネストを支配している。

「それで、あんたは自分の兄貴が普通じゃないと思って、魔石を地球へと送った……つーことだな」

『我一人では、守りきれぬ。ならば他の神々のいる地球へと思ってな』

『他の神って……僕以外の誰かと会った?』

「残念ながら。グリフィードを拾った私がこの通り、中々ロシアから離れられない身ですからね」

軍医であるエリックが、ロシアから離れる事はまずない。
軍、とはいっても戦争など今では起きるわけもないし、アルタイルから来る異人とのいざこざを収める程度なのだ。

最近では各国でそれを抑えることも出来る為、軍人の派遣も少ない。
そうなればロシアから出ることは0%に近いということになる。

「問題はそこじゃねーだろ。この魔石がやばいってのが、分ったんだ。これをどうするかつーのが本題だろうが」

『ハングが真面目になってる……。明日は槍が降るかも……』

「悪いが今はお前の悪ふざけに付き合っている暇はねーんだ」

珍しくセティルバレイスの挑発にものらず、ハングは真剣な表情を崩さないままだ。
アルタイルの魔石ってことで興味はあったが、それが神……しかもやばい神のカケラなら話なら話は別。

唯でさえ、セティルバレイスという厄介者を一人抱え込んでいるのに、もう一つ神が出てきたなんて自分の許容範囲以内を越している。

いままでは大事に抱え込んできた魔石だが、今では手のひらを返したように誰かに押し付けてしまいたい。
それがハングの本音だった。

『そんなに心配しなくても、まだ平気だよ。ダルクはまだこれに気づいてないから。それに気づいたとしても、彼はこれを求めない』

「どういうことですか? 普通なら、失った力を取り戻そうとするのでは?」

『失った力が、本人とって大切だ……というわけではないのだ。ダルク殿は力を求めていた。誰よりも強い力を……。確かに彼は強かった。けれど神々の中において、どうしても勝てない神がいた』

『無神、ムーリオグレス。ダルクが唯一勝てない相手だよ。まぁ、僕みたいな戦う力のない神を除いてだけどね。彼と戦ったとき、ダルクは気づいちゃったんだ。ムーリオグレスの力にね』

「そいつはそんなに強いのか? まぁ、無神っていうぐらいだから、何もかも無へと返すとかするんだろ」

『否、ムーリオグレス殿の力はより強い絆。それがダルク殿の力を上回ったのだ』

自分の為ではなく、他者への思いの強さがムーリオグレスがダルクに勝てた理由。
だから、ダルクはその思いを求めた。
他者を守りたいという強い思いがより強い力を手に入れると気づいた。

だが、それは闇の中で一人だったダルクにとっては今までも自分を否定するような、忌々しいものでしかない。
闇と孤独を好むダルクが、他者のためになど力を使える筈もない。

この魔石は、ダルクの他者を守りたいと思い、ダルクが強くなるために求め、けれど受け入れる事の出来ない物。



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