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>>02

「……ハング先生?」

「悪いが時也。急ぎの仕事を思い出してな。青いファイルあったろ、今日中に纏めなきゃならないことを、あいつ等に連絡してくれねーか?」

「ですが、まだ話の途中」

「俺が聞いとくから。確かに話中に悪いが研究員は暇に見えて忙しいんだ」

時也という青年をここから追い出すための話にちゃっかりと先程の発言に対しての嫌味を混ぜてくる。
良く口の回る男だとエリックは感心する。

「私は構いませんよ。宜しかったら電話をお貸ししましょうか?」

「そりゃ助かる。って事だ、時也頼むな」

「……分りましたよ」

ハングが時也の背中を叩くと時也は渋々返事をした。
せっかく魔石について何か分るかもしれないというのに、お預けを食らったのだ。
恨めしそうにハングを見てから、エリックへと視線を移す。

「近くにいる者に電話のある場所まで案内させます」

エリックが席を立ちドアへと向かうと、時也も重い腰を持ち上げた。
そんな時也を見て、ハングは研究熱心なのもいいが、こういう奴は扱いにくいな……と思っていた。

時也が部屋を出るとエリックの隣に彼の腰ぐらいの背丈のロボットがいる事に気付く。
雷のマナが強く、アルタイルの中でもアンドロイド達が住むエリアと繋がっているロシアでは当たり前の光景だ。

今では時也もロボットを見なれているが、日本からロシアへと来たばかりの頃は感動と興奮が収まらず、一日中騒いでいたのを思い出す。

「このロボットについていけば大丈夫ですよ」

「わざわざ済みません。ハング先生は少々口が悪いですけど、根は優しい人なので」

あれほど酷い扱いを受けておきながらハングを心配する時也。
よっぽど彼を尊敬しているのだなとエリックは思った。

「えぇ、分ってます。私は軍医です、人の感情を読むのは他の人よりも得意だと思ってますから」

怪我や病気を治すのだけが軍医の仕事ではない。
集団組織でストレスの溜まり易い軍という場所では、メンタル面でもケアが必要な時がある。
エリックはそういった患者を担当することもあり、普通の人よりは他人の心の動きを良く分っているつもりだ。

「では、宜しくお願いします」

一礼してから時也が去っていき、エリックは部屋の中へと戻る。
部屋に入るとハングの隣に小さな子供がいた。
どうやら、この子供が先程の声の主らしい。

「彼、貴方の事、相当心配していましたよ。上司というより兄のように見てるんですね」

「まぁ、アイツのお袋さんが亡くなってからは俺が面倒見てるからな」

母親を亡くしている、と聞いてエリックは胸を痛めた。

「すみません」

「変な奴だな。こっちが勝手に喋ったんだ。アンタが謝る必要はないだろ。それよりも時也が戻ってくる前に、さっさと方をつけようぜ。アンタも持ってるんだろ厄介な奴をさ……」

ハングは一度、子供を見てから挑発的な笑みを浮かべてエリックを見た。
厄介者扱いされた子供は怒っているのかじーっとハングを睨み付けている。
自分の持つグリフィードとはだいぶ性格が違うようだ。

神と一言で言っても色々なタイプがあるのだな、とエリックは思った。

「はい。確かに私も持っていますよ『神』と呼ばれる者をね」

エリックは服の上から首に掛けているペンダントを握り締めた。

『久しぶりだよね、グリフィード。ウェネストは一緒じゃないんだ。めずらしー』

『セティルバレイス殿もお変わりないようで。所で、無闇に実体化するとは……汝は自分の主を倒れさせたいのか?』

グリフィード、と呼ばれたエリックの持つ神の言葉にいち早く反応したのはハングだった。

「おいおい、それどうゆうことだ? こいつが実体化すると俺が倒れる、ってのは本当なのか!」

姿の見えない相手。
だが、おそらくはエリックが握り締めたその中にいると仮定したハングは、エリックへと向かい怒鳴りつけた。

『何も知らぬのだな。我等神が実体化するには二つの方法がある。一つは我等自身の力を削る事、そしてもう一つは自分の主の力を利用する事』

エリックですら、今初めて知った事実に驚いた。
そして、自分を気遣い実体化しないグリフィードに感謝した。

「なるほど、そう言う事か。どーりで、お前が出てくると体がだるいわけだ……。さっさと鏡に戻れガキ」

セティルバレイスの胸倉を掴み、子供の姿をした彼を前後に揺らしながら、ハングは「戻れー!」と怒鳴り出す。
流石のセティルバレイスも、これまでにないハングの怒りように、逃げるように姿を消した。

残ったのはハングの手のひらに乗る小さな鏡だけだった。



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