SIDE エリック 「エルリック!」 薬の調合をしてる最中に自分の名を呼ばれたが調合中だったので失礼だと思ったが無視した。 「エルリック〜!」 「主任、私に何か」 最後の一掬いをカプセルにいれ自分を探している主任に返事を返した。 「ここに居たのか、エルリック」 少し息を切らした主任がエリックのもとに駆け寄った。 「今日の私の担当は調合ですから」 普段だったら自分より背の低い自分を主任を見上げながら答えた。 「相変わらず冷めてんなー、そんなんじゃ彼女出来ねぇーぞ」 そう言って主任は笑いながらエリックの肩を叩く、その痛みにエリックは顔を顰めたが、構ってはいられないと思ったのか調合を再開しようと手を伸ばした。 「まっ、待った。俺が悪かった実はエルリックお前に客が来てるんだよ」 「客人ですか?」 エリックは自分に客人などありえないという表情がありありと浮かんでいたが、会わない訳にもいかず、席を立つ。 「あぁ、研究者だと思うが……それとエリックひとつ聞いていい何か頼んでいた毒消しにしては量が多い気がするんだが……」 ドアノブに手をかけたエリックに主任が問いかける。 「あぁ、それですか。それは私個人の判断で作った栄養剤と鎮静剤です」 「そうか。丁度、その二つ切らしてたんだよ。助かった」 いえ、構いませんよ、そう言ってエリックは軍の入り口に向かった。 「だからエルリックという軍医に会わせてもらいたい」 「ですから。今、医療班の方が探しに行っています」 その時、奥から一人の男が急ぎ足でこちらに向かって来た。 「すみません。お待たせしてしまって……私がエルリックです。立話もなんでしょうからこちらへどうぞ」 エリックは近くにいた女性にコーヒーを頼むと客人を小会議室に案内する。 「どうぞ、お掛けになってください」 エリックは客人に座るように促すと、先程エリックがコーヒーを頼んだ女性がコーヒーを運んできた。 女性は三人にコーヒーを配り終えると一礼し部屋から出ていった。 「さてと、初めまして……だな。俺はハングレイブ・ディオタール。ロシア軍の援助でアルタイルの研究をしているもんだ。で、こっちが助手の……」 「千石時也です。宜しくお願いします」 そう、エリックへの客人とは戒斗から情報を受け取ったハング達だったのだ。 そんな事を知るよしもないエルリックはハング達に対して観察を始めていた。 随分とフリの軽い男と丁寧な物腰の青年という妙な組み合わせの客だ……というのが二人の第一印象だった。 「もう、ご存知のようでしたが、私がエルリックです。それで私に何の用ですか?」 「エルリック……つまりアンタが獣人だという噂を聞いてな。それが本当なら俺達の研究に協力して欲しいんだ」 それを聞くとエルリックは肩を振るわせながら笑いを堪える。 「ハハハ……いや、失礼。そんな寝も葉もない噂を信じてわざわざここまでお越しになるとは……研究員というものは思っていたよりも暇なのですね」 エリックの挑発に唇を強く噛み締める時也。 そしてまったく気にしていない様子のハング。 エリックは厄介な相手だと笑顔を浮かべながらも心は穏やかではない。 「そうなんだよ。ちょっとして暇つぶしに付き合ってもらいたくてな。時也、あれを」 「あっ! はい。分りました」 時也がバッグの中から小さな箱を取り出した。 そして、エリックの方に向けながら蓋を開け、中身を見せる。 そこには一つの石が収まっていた。 「これは魔石……」 「ご名答。これが分るって言うなら、アンタが獣人だろうが、人間だろうが関係ねー。アンタはこれが何だと思うか教えてくれ」 エリックはじっとハングを見つめた。 何か企んでいるような汚れた目をしていない。 ただ、純粋にこの魔石のことが知りたいのだと感じられた。 「これは、エルリックという私個人の意見です」 ただの気まぐれだとエリックは思った。 でなければ自分の存在が危うくなるような真似はしない。 気が向いたから話すのだ。 決してハングが獣人ではなくエルリックとして見てくれからではない。 そう、自分に言い聞かせた。 「この魔石は……」 『闇神ダルクの欠片……だよね』 エリックの声を遮るように子供の声が聞こえた。 ただし、その声が聞こえたのはハングとエリックの二人だけ。 驚く二人を見て、声の聞こえない時也が不思議そうな表情をしていた。 「魔石は……何ですか?」 「時也……お前」 『彼に我等の声は聞こえぬ。彼は契約者ではないからな』 |