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始まりの、悪夢

SIDE ハング



夢を見ているのだ……とハングは思った。
何故なら先程、彼は確かに自室のベッドの中に潜り込んだのだから。

闇の広がるこの空間で、どこへ向かっているのか分らない。
かれこれ一時間弱は歩いているだろうか。
否、何も感じることの出来ない闇の中では時間の流れすら分らない。

「ねぇ、君はいつまでここにいるつもりなの?」

「誰だ!」

突然声が聞こえハングは振り返るが、誰もいない。
聞えたのは子供の声。
そして、それはどこかで聞いた事のある声に思えた。

「早く僕に気付いてよ。こんなに近くにいるのさぁ……」

「誰だって聞いているんだ。俺の質問に答えろ」

ハングは苛立ちながら、闇に向かい怒鳴る。

「僕が誰かだって? 君は本当に気付いてないの?」

すぐ後ろから声が聞こえ、ハングは慌てて振り返る。
そこにいたのは一人の子供だった。
それも、ハングの良く知る子供だ。

「俺、なのか?」

目の前にいる子供の姿は、かつて自分と瓜二つ。

「僕は君じゃないよ。君がハングレイブなんだから」

幼少時代のハングの姿をした相手は楽しそうに笑う。

「そりゃ、そうだな。俺以外に俺がいるわけねーよな。そんじゃ、俺の姿を持つお前は何者だ?」

ハングが問う。
その問いを子供は待っていたことばかりに嬉しそうに答える。

「僕はセティル。時空神セティルバレイス」

「時空神……だと?」

ハングは疑いの目を向ける。
いくら自分の夢の中だとはいえ、神などいるわけがないと思っているからだ。

「信じてないね君。まぁ、いいけどさぁ」

人を馬鹿にするような笑みを浮かべるセティルバレイスをハングは睨みつける。
しかし、まったく気にしていないのかセティルバレイスは話を続ける。

「君の未来はもう決まっている。僕に会った時点でね。君は近々死ぬ事になる。けれど君の死は無駄じゃない」

「馬鹿なことを言うのはやめろ。俺が死ぬだと、そんなの信じられるのかよ!」

ハングはセティルバレイスを怒鳴りつける。
最悪な夢だなと思いながら早く夢が覚めるように願った。

「君の思いは関係ないよ。どう足掻いても未来は変わらない。そろそろ時間切れみたい。また会おう、ハングレイブ」

セティルバレイスは闇の中へとすっと消えていく。

「待てっ! 待てよ、おいっ!」

ハングは走って追いかけるが、闇に変化はない。
それでも闇の中をがむしゃらに走り続ける。

「くそっ! なんなんだこの夢は」

闇の中を走り続けるが突然足場が消え、浮遊感と共に足元から血が頭へと昇るのを感じハングは思わず目を閉じた。





「夢……なんだよな」

目を開けると、見慣れた自室の天井が見える。
汗でびっしょりと濡れ、肌に纏わりつく服が気持ち悪い。
額の汗を拭ってから、シャワーを浴びようとベッドから起きあがる。

ふと、部屋を見たときテーブルの上に見なれない物があるのに気がついた。
男のハングには、あまり必要の無い小さな鏡だった。

(何でこんな所に鏡が……)

ハングは鏡を手に取り覗きこむとそこに映っているのは幼い時の自分の姿。
にこにこ笑う鏡に映る自分は夢で会った、セティルバレイスに見える。
思わずハングは鏡から目を背けた。

(まさかな……そんなことあるわけが……)

恐る恐るハングが再び鏡を見ると、相変わらず笑顔の子供の顔が映っている。
ハングはニコニコと笑い続けるセティルバレイス(仮)に笑いかけたかと思えば鏡を床めがけて投げ捨てた。

パリンッと音をたてて鏡が割れたがハングは何もなかったようにシャワールームへと向かった。
熱いシャワーで気持ち悪かった汗を流し、さっぱりとした気分でハングが部屋に戻ってくると割った筈の鏡が元の形でテーブルの上に置かれている。

「おいおい……マジかよ」

『僕はちゃんと言ったはずだよ。また会おうってね』

ニコニコと笑うセティルバレイスの声を聞きながらハングは溜息をつく。
がっくりと肩を落とすハングを見て、セティルバレイスが心配そうに声を掛けるがハングの耳には届いていないようだった。



ACT.13 始まりの、悪夢 END



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