SIDE 戒斗
そして、翌日。戒斗がダンバッハ家を訪れるとすでに先客がいた。
ノエル、そして二年前に世話になった人物……カインだ。
「何故、お前達が居る」
「ひどいなぁ〜、二年前に君の面倒をみたのは俺なんだよ。なのにその態度はないだろ」
「それに、こんなにぼったくれる美味しい話は、分け合うものでしょう?」
きつく言ったつもりなのにカインは言葉とは裏腹に気にしていないというように笑っていた。さらに、ノエルは天使なのかと疑いたくなる発言までしている。
先程言った様にカインは戒斗が二年前に世話になった人で賞金稼ぎをして生計を立てている。
人柄も良く温厚な顔をした奴がどうやって賞金稼ぎと一目で分ろうか。だが、いざ賞金首を見付けると奴は別人のように雰囲気が変わる。
「そろそろ、向かった方が良いんじゃないかな。戒斗」
「わかっている」
凝った造りをしている豪華そうな扉をノックすると暫らくして中からメイドらしき人物がやってきて戒斗達を招き入れた。
「いらっしゃいませ。鳳様でいらっしゃいますね、どうぞ此方へ。旦那様がお待ちしております」
メイドの案内で家の主の部屋へと向かう途中、この家の主人の事を聞きだし情報を集めながら進んだ。そして、主人の部屋に着いたのか、メイドが扉を開ける。
そこには背を向けて福与かな体型の男が立っていた。
「旦那様、ディライアの方がいらっしゃいました」
「そうか、君、お茶を頼む」
メイドが畏まりました、と言って部屋を去るとこちらを向いた。
「ようこそダンバッハ家へ。私は当主のクレイト・ダンバッハと申します。鳳殿を始めとしたディライアの方々どうぞお座りください」
自分の自己紹介を済ませ、戒斗達に座るように促した。
「始めましてクレイト様、私はカイン。貴方様の依頼を承りたく参上いたしました。こちらにいるには私の仲間で」
「戒斗」
「ノエルです」
戒斗達が自己紹介を終えた同時にメイドがお茶を運んできた部屋がハーブティの香りに包まれた。
「ありがとうございます」
「いえ、お口に合うと良いのですが……では、失礼します」
メイドがクレイトに一礼し去ると、クレイトは重々しい口を開いた。
「では、依頼の話だが……君達は客人に化けてここを護って欲しい。来賓には各国の著名人も来るのだ、何事もなくパーティーを終わらせたい」
「それは盗賊からですね?」
カインがそう尋ねるとクレイトは渋い表情で頷いた。
「報酬は一人200万G、それで不満ならもう100万Gだそう」
「では、その300万Gで引きうけよう」
そう約束を取り付けると戒斗達はクレイトに頭を下げ館から出ていった。
パーティー当日、戒斗達は朝からダンバッハの館へと来ていた。
ノエルは白のノースリーブのドレスにピンクのカーディガンを重ね、髪はいつもとは違い一つに纏められてアップにされていた。
カインは三つ揃えの藍色のスーツをきっちりと着こなしている。
そして、戒斗は緑色のスーツを着ていてシャツは第二ボタンまで開け中のプラチナチェーンのネックレスが見えている。
その提案をしたノエルいわくご令嬢(ノエル)、執事(カイン)、ボディーガード(戒斗)だそうだ。
パーティーが始まるのは午後四時から、けれど三人は館内の通路、出入り口の確認をする為に早く来ていた。
「入りやすそうな場所は……ここと、ここ」
「ここもだ」
館の見取り図を見ながら赤ペンで印をつけていく。
ノエルが差した場所は西側にある森、そして東の正門。その後、戒斗が差したのは北にある高い建物。
「いいとこつくね、戒斗。でも、入り口を塞ぐより入って来た所を捕まえた方が楽だろ。何処からだろうと彼等は入ってくるだろうしね」
二人とは少し離れたイスに座りながらカインが言う。
総てを見通したような、物言いに、戒斗は 眉間に皺を寄せる。
戒斗にとってカインの一番苦手な所だ。
カインにとって何気ない一言だろうが、その一言で何度も好機を掴んできた。
本人は「運が良かった」の一言ですませるが、戒斗はそう思っていない。
カインという男の見た目に騙されてはいけない、侮ると痛い目にあうのは自分だ…と戒斗は思う。
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