戒斗は煙草を吸いながら、バイクに寄り掛かかる。赤く染まりつつある空に白い一本の紫煙が立ち昇る。 煙草を携帯用の灰皿に押し付けて、バイクに乗り家への道のりを走り抜けていった。 家に帰って来た戒斗は青色の水晶に手をかけた。 魔術の発達したヨーロッパでは水晶を使った、旧時代でのテレビ電話とメール機能を掛け合わせたようなものが普及していた。 戒斗のいない間に二件のメールが入っていた。一件は母親からのもので月一程度にくる定期的なものだった。そして、もう一件は仕事の話だった。 ここらでは有名な金持ちの家からだった。一週間後に開かれる一人娘の誕生日パーティーでの護衛の話だ。 もちろん貴族や政府のお偉いさんも参加するパーティーだ。そのため護衛は多いにこしたことはない。だからこうしてディライアも呼ばれるのだ。 それなりの金も出してもらえるし、今受けている仕事もないので、戒斗は返事をYESと送った。 (明日はパーティーに着ていく服でも買いに行くか。後、バイクのガソリンもそろそろ入れないとな) 石油の無いこの時代、バイクを動かすガソリンも名前だけは変わっていないが、実際は魔力の溶け込んだ液体のことだ。車を動かすほどエネルギーを作り出すことが出来ないため、バイクはあっても車は存在していない。 その変わりに旧時代よりも、列車や飛行船などが多く存在している。 そして連合と各国の政府に管理されたワープポイントと言うものが有り、長い距離を僅かな時間で移動できる。が、それには金がかかり一般人にはあまり使われていない。 これがこの時代の移動と手段となっている。 夕食を作り、新聞を見ながら食べる。新しい賞金首のチラシを見ながら高額な者だけ抜き出した。 今日の賞金首は一人一人の賞金は少ないが数が数なだけにノエルと二人で分けてもそれなりの高額になるだろう。その金で新しいスーツを買い、ガソリンを買えばいいかと思いながら最後のチラシを見た。 顔写真は載っていない。ただニルヴァーナ盗賊団とだけ書かれている。 ニルヴァーナ――何処かで聞いた名前だと戒斗は思い出していた。 そういえば、数日前にスーパーで主婦らしき二人が話していた義賊の名前ではなかっただろうか。 悪巧みで大金を手に入れる貴族ばかり狙う義賊はヨーロッパに多く居る。 その中でも最近有名になってきているのがシオンという男が率いるニルヴァーナだったはずだ、と戒斗の頭にはインプットされていた。 そういえば先程仕事を受けた貴族もまた悪巧みで金持ちとなったはずだ。 この近くでニルヴァーナに襲われていないのは戒斗の知る中ではその家だけだ。だからディライアである戒斗にまで護衛の話がまわってきたのだろう。 護衛を専門とするボディーガードなど山ほどいるだろうし、もともと戒斗は護衛よりも攻めて敵を倒す方が専門である。 そんな戒斗に仕事が来たと言う事は、もしニルヴァーナが現われたら捕まえろということだ。 「正体不明のニルヴァーナのシオン……か。久しぶりに楽しめそうな奴だ」 コルクボードにニルヴァーナのチラシをはる。 賭けられた賞金は2000万G.弱くは無いということだ。 このところ小物ばかりしか相手にしていない戒斗にとって久しぶりの大物だ。 自分の愛刀を手入れしながら戒斗に不敵に笑う。 ――パーティーまで後、一週間。 ACT.01 ディライア、鳳戒斗 END |