SIDE エリック ここはロシアの軍医、エリック・アッシュ・クロフトの住む社宅である。 彼は普段はしっかりと縛っている髪を下ろし何か報告書のような物を書いていた。 「ダンバッハ総帥には悪いが、先日のパーティーは最悪だった。……人間は何であんな物を好むんだ……うっ、思い出しただけで気持ち悪くなった」 話は少し遡る。 私は数日前、総帥の孫娘の誕生パーティーに総帥の付き添いとして参加した。 総帥は結構顔が広いのかすぐさま総帥の周りに人が集まっていた。人が良い総帥は一人一人に挨拶を交わしながら私を紹介していた。私もそんな総帥に恥を欠かせぬ為に全員に会釈をしていった。 そして、やがて孫娘を連れダンバッハの当主がやって来た。 久しぶりに会ったのだから積もる話があるだろうと思い総帥に許可を頂き傍を離れた。 当主の横を通り過ぎた時、彼から微かに火薬と医療薬品とは違う匂いがしたが、私には関係無いと思いその場を後にした。 それからだ、私にとってパーティーが最悪になったのは……。 まず、第一に女性が好む香水。 一つだけなら良い香りなのだろうがその匂いが混ざるとある意味一種の毒薬となる。 それを体験したのは総帥の元を離れ一人部屋の隅にワイングラスを持ちながら佇んでいるときだ。何故だか女性達が集まり人の腕を取ったり、纏わりつかれたりしたせいで身体に香水の匂いが染み付いて物凄い匂いとなっていた。 その次に料理や剥製の数に驚いた。 料理は肉類が一番多かった。鶏肉を始め牛肉と豚肉と数多くの肉料理が並べられていた。 そして剥製の数も料理の数と引けを取ってはいなかった。 シカにオオカミにウサギ……そして私と同じタカ。 それがもし、地球に行った仲間の成れの果てかも知れないと思った瞬間、吐き気がしてそのままテラスの方へと走っていたような気がする。 そして、落ち着いた頃に不思議な青年に会ったのは覚えている。 「やはり、人間は我々とは相容れないのだ……何故、陸族は人間と共存なぞ考えるのだ」 獣人は三つの一族に分かれている。 一つは水族、名前の通り水中に住む物がここに属している。 水族は人間を良くも思っていないし悪いとも思っていない中立の立場を取っている。 二つ目は陸族、この一族は主に大地を駆けている者たちが属している。 そして、この一族は空族とは反対に人間を好いている者が多い一族でもある。 最後は私が属している空族、名のとおり空を飛べるものが属している。 そして三つの部族の中で最も人間を嫌っている一族でもある。 その為、意見の対立が起き獣人を二人、代表として地球に送る事を獣人の長たる父がこう結論を出した。 代表の二人の内一人は水族のリーア。彼女は正式に獣人の代表として連合へ赴いた。 そして、もう一人は私だ。私は人間の裏側を知るためにスパイとしてロシアに潜り込んだ。 「さて、これでよし」 書いていた手紙を丸め筒に入れると立ち上がり窓を開け近くに止まっていたリルを呼ぶ。 『何? エリック』 リルはエリックの腕に止まると首を傾げながらエリックを見上げた。 「これを父上……いや、空族の族長に渡して欲しい。頼めるかい?」 『うん、いいよ。エリック、僕もう行くね』 リルは開いたままになっていた窓から空へと飛んで行く、それをエリックはただ静かに見つめていた。 |