大剣が振り下ろされる一瞬の隙を突いて、戒斗はシオンに足をかけ転倒させると自分が馬乗りになり、同じ事をされないようにした。 左手は大剣を持つシオンの手をおさえ、右手の刀はシオンの首元へと向けられている。 「形成逆転だな。最後で手を抜いたお前が悪い」 「――っ!」 シオンが息を呑む音が聞こえた。それくらい、静かだった。 踊り場の窓からは月明かりが入り込りこみ、今まで暗くて見えなかったシオンの顔を月明かりがうつしだした。 シオンの顔を見て今度は戒斗が息を呑む番となった。 「お前……昼間の」 そう実は戒斗が昼間ぶつかったメイドこそ、シオンだったのだ。 シオンは気まずそうに顔を背けた。 「驚いた……まさかニルヴァーナのシオンが……女装趣味だったとはな」 「なっ!? 違う、俺は正真正銘女だ!」 我に返ったシオンが思いっきり訂正した。 真正面から戒斗を見つめると戒斗は先程とは別の表情でシオンを見つめ返していた。 「冗談だ。お前の手を取ったときにわかった。剣だこで硬くなっているが、あれは女の手だ」 「じゃあ、なんでわざとあんなことを!」 「別にたいした理由はない。それより金品を置いて逃げるか、それとも警察行きか、どちらか選べ」 言えるはずがない。 今までカインやノエルにからかわれてきた八つ当たりだなんて……。 「なぜ殺さない! 俺が女だからか! それとも子供だからか! そうやって情けをかけられて生きても嬉しくないなんかない! こんな貴族に仕える奴に助けられるなら死んだほうがましだ!」 泣いてはいない、だが今にも泣きそうな顔でシオンは言う。 「勘違いするな、俺はディライアだ。お前を殺さないのは情けなんかじゃない。お前が俺を殺そうとしていないし、俺がお前を殺す仕事を請けていないからだ」 無表情のまま戒斗は言った。 「ダンバッハに仕えていない? ならどうして奴の悪事を知っていて野放しにしてるんだ! 奴は市民から金を騙し取り、あげくのはて銃や麻薬の密輸だってしてるんだぞ!」 「だからどうした? それが俺と何の関係がある。金さえ払えば仕事を請けるそれだけだ」 「何の関係があるってアンタ、下の奴等の苦労を知らないのか! アンタ達みたいなディライアとは違って毎日生きるか死ぬかの瀬戸際なんだ」 「だからといって盗みを働いても良いのか? 関係のない人々を巻き込んで……怯えさせていいのか? お前達義賊とてやってることは同じだろう? もとは自分の金だったからといって奪っても良いのか?」 まっすぐな視線を向けられて、シオンは何も言えなくなった。 自分達が盗んでるのは事実、義賊だからといって赦される事ではない。 「今日は分が悪いから引く。だが奴らだけは許せない……絶対に潰す」 「好きにすればいい。俺には関係のない事だ」 戒斗はシオンの上から退くとパーティー会場へと戻り、盗賊たちを追い払ったと報告した。 クレイト・ダンバッハは大いに喜び、戒斗達もパーティーを楽しんでくれと上機嫌で語った。 ――その後、パーティーは何事も無く無事に終わった。 ACT.05 稼ぎどころな、依頼 END |