メイドが出て行くのを見つめていると、どこからかノエルがやって来てひょっこりと顔を出す。 「見てたよ、戒斗さ〜ん。今のカワイイ子だったね。しかも普段女の子に興味なさげな戒斗さんが女の子の後ろ姿を見つめてるなんて……キャ〜! ノエルちゃん失恋?」 ノエルが人をさん付けで呼ぶ時や、自分のことをノエルちゃんと呼ぶ時は必ずからかう時だ。子供が新しいおもちゃを貰った時のような、その表現からも言える。 やっかいな奴に見られたな、と戒斗は思いつつ否定はしなかった。 「あぁ、気になることがあったからな」 否定すればさらにイジられる。だから否定とも肯定とも取れない返事をした。 「ふ〜ん。気になることねぇ……。そういえば、こっちはOKだよ。ちゃんと見つけちゃった。北の保母さんの所にいたよ。じぁ、私もう少し遊んでくるから」 言いたい事だけ言ってノエルは去っていった。 (保母さん……ほぼ三か……北の二階と三階の間に隠し部屋あり) 周りに人が居ると困る為、わざと分かりにくい言い方をしてきた。こういったことはディライアだけではなく色々な所で行われている。 戒斗はノエルの言っていた北の二階と三階をつなぐ階段の踊り場へとやって来た。 窓から外を眺めると、丁度、隣の建物の二階のベランダが近くにあった。 (飛び移れない距離じゃないな) 他にも出入りで使いそうな場所をいくつか見つけて、三人はパーティの始まりを待っていた。 午後四時、来賓達も次々やって来てパーティー会場は人で埋め尽くされていた。 「思った以上に集まってるし、香水の臭いが混じって変な臭いなってるよぉー」 ジュースの入ったグラスの片手に壁際の花とかした令嬢ことノエルが嫌そうに顔をしかめながら言った。 「困りましたね。これだけ人が多いと紛れ込んでも分かりませんよ」 困ったと言いつつ笑顔なのはカイン。手にはノエルのためのフルーツの盛り合わせがある。 そのフルーツを酒のつまみにしているのは戒斗だ。 酒といっても女性向きに用意されたノンアルコールドリンクだ。 酒には強い戒斗だが今は仕事中だからと控えていた。 「それにしても……パーティーって、つまらないね。貴族って何が楽しくてこんな事してるのかな」 ノエルが二人しか聞こえないような小声で言う。 「自分がどれだけ金を持ってるか見せびらかしたいんだろ。自分で苦労して稼いだ金じゃないのにな。おめでたい奴らばかりさ、貴族ってのはな」 「あれ? 戒斗は貴族嫌いだったっけ? いつも興味なさそうなのに、戒斗が一番初めに答えるなんて珍しいね」 「別に……。そろそろばらつくか、相手がいつ来るかわかってないしな」 貴族は嫌いなわけじゃないと思う。 ただ、同時に好きになれないとも思う。 貴族全員が悪い奴なわけじゃないし、職業なんて、人の良し悪しには関係ない。 貴族をどう思うかと聞かれたら、きっと戒斗はこう答える「金ヅル」と。 「そうしようよ、私も何だか人に酔ったみたいだし、散歩してた方がまし」 「そうですね、じゃあこれからは自由行動という事で、解散」 三人バラバラにパーティ会場内へと消えていった。 |