知らないはず、
何がどうなってるの?
私の頭にはそれしか浮かばなかった。
洞窟を出たかと思えば並盛中の前に立っている私。それは私が通っている学校である。夜の並中はひっそりとしていて、人気はない。そんなのは当たり前なのだが、私は妙に違和感を感じていた。
ふらふらと歩き出す。おぼつかない足取りは疲れ切っていることを表していて、はぁ、なんてため息をついた。
ビュッ
『!?』
私は立ち止まった。今、いきなり………何かが後ろから飛んできた。耳の極近くを通ったそれ。幸いにもどこも切れてはいなかったが、新しい恐怖。
後ろに、誰かいる。
冷や汗が流れるのを感じた。振り向いてもいいものなのか。振り向いた瞬間に、切りつけられるかもしれない。
私はこのとき気づいてはいなかった。飛んできた“それ”は闇に溶けて見えなかったのに、どうして――――――
どうして、ナイフだと
わかっていたのかを。
「ししっ……ざーんねん」
『!!』
いきなり人が私の前に現れた。後ろにあった人の気配は―――ない。
「なんで避けちゃうわけ……?」
彼は全身黒だった。ただ、中に着ているボーダーとブーツだけ、黒ではない。そしてその人は片手で優しく私の頬を撫でた。
ゾクリと背筋が凍る。私の本能は“逃げて”なんて叫んでいるけど、怖くて足が、腕が、口が、目でさえも。少しも動きはしない。
「オレさ、ずーっと捜してたんだぜ?王子が捜してやってんのになかなか見つからないしさ…」
話が、読めない。私を捜してた?この人は誰?どうして私を知ってるの?――『王子』って、何?
『さ、…わらな、い…で』
やっとの思いで言った言葉。勝手に口が言葉を紡ぐから考える余裕なんて無かった。
『さんざ、ん酷いこと、しておいて………今更会いに来ないでよ!!』
パシン、とその人の手を振り払った。
私、何言ってるの?会ったことなんて無いじゃない。なのにどうしてこんなにも、こんなにも。
悲しい気持ちになるの?
「酷いこと?何言ってんだよ。王子はそんなことしてねーから」
『……もう、いいから…』
私は拳を握りしめた。そして意を決して彼の顔を見る。カタカタと体が震えていたが今は構ってられない。
『もういいから、二度と私に関わらないでっ!!』
「乃愛!」
私は無我夢中で走った。あんなに動かなかった手足がすごい勢いで動いてることに疑問を感じながらもひたすら走った。
思いを、振り切るかのように。
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