無邪気は邪気が無いということ:雑伏
「雑渡さん…」
いつものように首に腕を回し、黒い頭巾を抱きしめた
「…ねえ伏木蔵」
「はい?」
片方だけ包帯から覗く目を見るがいつものまま、何も読み取れず訝しげに見やる
「なんで何時も仕事前に来んの。これでも結構つらいのよ」
「え」
下がり気味の眉がいっそう八の字に歪み泣きそうな顔になってしまった
「だって、もう二度と会えないような気がして…迷惑かけて御免なさい」
しゅんとうなだれる姿がいじらしい
もう可愛いんだからこの子は
「違うよ、私も伏木蔵と離れたくなくてつらいってこと」
胡座をかいた膝上に座るのは何時からだったか、まだまだ自分より細くて小さい身体は片腕で抱きしめてしまえる程だ。
私の意図が解ったのか嬉しそうに身体を擦り寄せている。
顔も上げないまま唐突に話しはじめた。
「でも雑渡さんが死んでも僕は後を追ったりしませんよ」
楽しそうに言うでもなく申し訳なさそうに言うでもなく、ただ淡々とした口調だ。
「酷いなあ…もしかしたら私、死に際に伏木蔵も一緒に連れていっちゃうかもしれないよ」
すると突然くるりとこちらを向いたと思ったらうっとりとした表情で一言
「…すごいスリル〜」
「とサスペンスだよね」
ふふふと笑う無邪気
「雑渡さんが殺してくれるならいいんです。そうじゃなきゃ意味ないし」
「だから死にそうでも、絶対に僕を殺しに来て下さい。そして死ぬまで名前を呼んで下さい」
まるで早く死ねとでも云われているような、しかしこれも愛だと云うならば受け取らぬなど何処の愚者か
「…なんか今回の仕事成功しそう」
「じゃあまた会えますね」
好きです雑渡さんと聞こえたので、接吻をくれてやったが
運を吸い取られそうなのでもう止めておくと言ったらまた拗ねてしまった。
私はきっとまた次も不運で物騒なこの子を無邪気と勘違いして可愛いがるのだろう
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