嫌いではないとして :太妹+竹
「やあ、小野イナフ。私の事、分かるだろ?」
「あれ、確か…太子の法隆ぢに居た、フィッシュ竹中さんですね。」
帰り道の途中、突然声をかけられた。ていうか僕はイナフじゃないんだけど。
「少しいいかい?」
僕は頷き、川のほとりに座った。
「私は太子と昔からの友人でね、最近よくイナフの話をするものだから、会って話してみたいと思っていたんだよ。」
変な人かと思ったら案外普通の人らしい。
「はぁ、太子が…」
不思議な色の瞳が僕に向けられ、ニコリと笑う。
「イナフは太子の事をどう思う?」
「太子を?…どうっていうか、まず我が儘だしバカだし年中ジャージだし、なんか臭いし、この間なんか糞忙しいときに蝶の羽化の観察に付き合わされてどうしてやろうかと思いましたね、まあ上げたらキリが無いですけどダメ人間ですね。困ったもんです。」
ハァとため息をついて太子像を説明する。
「なるほど、それで、太子の事は嫌いかい?」
竹中さんの尾鰭が夕日に反射してキラリと光る。
「…特に、嫌いでは、ない?」
妙だが自分でも疑問形になってしまっている。
クスクスと笑う声が聞こえ、気がつけば竹中さんは水の中を泳いで行くところだった。
「それを聞いて安心したよ」
竹中さんは少しだけ手を振り
「有難うイナフ、時間があったらまた話をしよう。太子をよろしく頼むよ。」
そう言うとあっという間に水中に消えてしまった。
「太子か…最近仕事してるのかな。今度合ったら聞いてみよう」
仕事の事と、あと竹中さんの事。
オレンジに傾く夕日に向かって歩きながら、まず夕飯の事を考えた。
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