10.愛は錆び付いてしまいましたので新しいものにお取り替え下さい


(学パロ/シカナルコ+@)





あ、と小さく声を上げたと思えば一瞬だけ嬉しそうに笑ってからサッと隠れる。
見ていたのだろう先へと視線を滑らせれば、中央の渡り廊下を歩くどうしようもない幼馴染みがいた。二階から見下ろすこちらと目が合えば向こうも逸らす。またか…とこっそり溜め息をついてから足元に小さくしゃがみこんだ友人へと視線を戻した。高く結われた綺麗な金髪が相手に見えていることに、このこはいつになったら気付くのだろう。そんな、窓際に腰掛けて傍観に徹していた自分に下の方から不安そうな声が上がる。
「行った?」
「そうね、行ったみたいよ」
「それは良かったってば」
にこっと笑みを浮かべながらよいせと腰を上げて少しばかり埃の付いた制服を払う。そしてまた例の人物の後ろ姿をしっかり見てから満足そうに笑った。でも。
「ねぇ、ナルト?」
「うん?」
「いつまで続けるの?それ」
ふるりとナルトの肩が震える。今のナルトにとって結構辛辣な言葉であることも充分分かっている。
「うーん、どうしようかなぁ」
どこか遠くを見てまるで他人事のように答える様子に、あぁこのこなりに必死になっているのだなぁと。
「迷惑掛けちゃうなら…って離れてはみたものの。うーん、結構寂しいってばねぇ」
彼女とは中学からの付き合いだがこんなに消極的な姿を見たのは初めてかもしれない。
なまじ原因を知っているだけあってもどかしいことこの上無い。
全ては奴のせいだ。
「…あんなののどこがいいのよ」
「ははっ、イノってばシカマルは自分の幼馴染みだろー?」
「だ・か・ら・よ!ナルトはこぉんなに可愛いのに!」
長く伸ばされた髪はきらきらと日の光りを弾いてくりっとした瞳はまるで真夏の抜けるような青空のそれ。誰もが羨むほどのプロポーションにしかしそれを鼻に掛けない優しくて快活な女の子、それが うずまきナルト だ。そんな彼女が恋をしたと聞いて、協力しないはずがない。恥ずかしそうにもじもじしながら打ち明けてきたあのときのナルトの可愛さといったら。あぁ思い出したら益々むかっ腹が立ってきた。

「むかつくわ…」

先に言っておくが、女子特有のお堅い結束からこんなことを言っているのではない。もし、相手がナルトのことを何とも思っていなかったら、こんなに躍起にならなかっただろう。ただし、それはあくまでも何とも思っていなかったら、の話。
(あの頭は伊達なのかしらね)
不思議そうに頭を傾けるナルトに対してイノはすっかり自分の世界へと入っている。ふつふつと沸き上がる鬱憤は収まりそうにない。
(大体自分から突き放したくせに次の日には寂しいとかなんなの!?少しは大人しくですって!?そんなん言ったらナルトが萎縮しちゃうでしょーが!ったく何のために大量のナルト情報垂れ流したと思ってるのよこんのヘタレがっ…!)
実のところ結構前から仲介役になっていた、気づかぬは本人たちばかりなり。だからこそもどかしさも数倍。
こんな風になってしまったのには理由がある。最初こそ、ナルトらしく毎日声を掛けてシカマルに覚えて貰おうと必死になっていた。 まぁそのときから既に相思相愛だったのだけれど。微笑ましく眺めていたら、恥ずかしさに堪えられなくなったのか良くわからないが、シカマルがぽろっとこぼしたのだ。
煩すぎるから少しは静かにしてくれないか、と。
ナルトにとってはショックだったに違いない。やっぱりちょっと鬱陶しかったかも、と縮こまりながら報告してきたその日を境に、ナルトはシカマルの傍に近寄ろうとはしなくなった。今みたいに見つけたら嬉しそうにするくせに隠れてできるだけシカマルの視界に入らないように。
せんな健気なナルトを見ていたから余計に苛々は募った。
(我が幼馴染みながらひっぱたいてやりたいわ)
しかもそれだけではない。どの口が言うのか、ナルトが近付かなくなってから奴からの相談が増えた。
曰く、静かすぎてつまらないと。
もちろん、ふざっけんな!と思いきり脚蹴りをお見舞いしてやった後は正座をさせての説教タイム。
もう本当に勘弁して欲しい。
引き攣るこめかみを指で押さえながらイノはやり場のない鬱憤を酸素とともに吐き出した。そもそも奴が本気を出さないからこんなことになるのだ。おまけに最近では別の問題もひょこひょこと顔を出して。
(害虫駆除も楽じゃないのよっ)
今まではシカマルにべったりだったから牽制くらいにはなっていたのだが、このところのナルトの動きに塵並みの希望を見出だしたらしい輩がちらほらと。そんな輩にちょっとばかり天然のナルトはホイホイ付いていく。これを止めなければならない身のことを、少しは慮ってくれ。
(お陰で私に彼氏が出来ないじゃないの!)
ぐぐぐっと力一杯拳を握ればやり場のない怒り再び。心配そうに覗き込んでくるナルトはともかくとして、渡り廊下にてくわりと呑気に欠伸をしている幼馴染みにその矛先が向く。それはもう積もりに積もった鬱憤とともに。勢いよく立ち上がりガシッと窓の縁を握り、そして大きく息を吸い込んだ。



「シカマルー!!!」



残りの休み時間五分。振り向くクラスメイトに他学年の生徒たち。しかしそんなものが気になるほどのみみっちい怒りではない。



「アンタいつまでナルトを待たせるつもり!?好きなら面倒くさいことしてないで早くモノにしちゃいなさいよヘタレって呼ぶわよー!」



各場所からどよめきが起こるが知ったことか。こちらにとっては重要な問題だし、そんなものより今は同時に真っ赤になった二人を見ているほうが何十倍も楽しい。さて、残りの休み時間は四分。ハッとしたように走り出したシカマルに少しは感謝しなさいよねーと心のなかで舌を出して。
「い、イノ…」
戸惑いがちに袖を引くナルトには満面の笑みを浮かべて。
「体調不良で保健室に行きましたって言っとくわ」
残りの休み時間は三分。次の担当教諭が来るのは大体一分前。
「お迎えが来るでしょうから、廊下で待ってなさいっ」
「でも…」
「文句は終わってから聞くわ!あ、きたきた」
ナルトの手を引いて廊下に出ればナイスタイミング。かなり珍しく全力で走ってきたらしいシカマルが口を開く前にナルトを押し付ける。
「大体、好き好き言うのは私にじゃなくて本人に言わなくちゃ」
隙を与えないよう畳み掛けるようにして、まぁそうしなくとも固まって動かなかったのだろうけど。視界の隅に担当教諭を捉えたイノはほら行った行ったと掌を振る。戸惑いがちに目を合わせた二人の手を、最後の仕上げとばかりにくっつけて。
「しっかり話し合うのよー」
バシッと強めに背中を叩けばそれを合図にシカマルが逃げるように走り出す。まぁここは廊下のど真ん中だし注目の的にはなっていたが、その掌は未だに茫然とするナルトと繋がっているから問題はないだろう。全く、世話が焼けるったらない。

「二人とも考えすぎね。愛ってのはもうちょっと単純なものだと思うのよねー」

小さくなってゆく二つの背中を見送りながらそんなことを呟いて、イノはどこか安心したようにくるりと踵を返した。

愛は錆び付いてしまいましたので新しいものにお取り替え下さい





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不器用な二人が好きです。そんな二人のために気合いを入れて頑張る友人たちが好きです(今回はイノだけでしたが)。ちょっとでも楽しんで頂ければ幸いでございます。












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あきゅろす。
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