君を好きな僕を好きな君 「お願いがあるんでさあ」 「難しいことじゃあねえですぜ、新八君」 わざとらしく新八君などと呼んでいる時点でかなり怪しいと思うのだが。僕の自宅である道場に真選組の沖田さんが来ている。いったいなぜか。普段なら(日常化しつつあるのは非常に問題である)軒下辺りにゴリラがいるのだが、嬉しいことに今日は来ていない。沖田さんはそのゴリラを迎えにきたようで、いないということを言えば帰るのかと思いきや。 「何ですか、近藤さんの面倒なら見ませんよ」 「そうじゃねえや」 「もったいぶらずに言って下さい、気になります」 「絶対にやってくれやす?」 「え、…そりゃあ内容によりますけど」 「その返事じゃあちょっと…」 「ええ、どどうしよう」 いやいやこれおかしくないか。何かはよく知らないが自分は頼まれる立場のはずだ。なぜ自分が妥協するような雰囲気に?… 「新八君にとってもいい話だと思いやす」 「いい話?」 「あ〜これを聞かないなんてもったいないな〜あ〜もったいないな〜」 「…そんなこと言われても内容が分からないのに、うなずくわけないじゃないですか!」 「…」 ずずず狡い。沖田さんはどんなに性格がドSで腹黒くても美形には変わりないのだ。だから今みたいに隣に座って見つめられると、何かすごく緊張するというか、恥ずかしいというか。べべべ別にホモじゃないけどね! 「新八君〜お願いしやす〜」 「うわわわ、なな何ですか、…」 沖田さんは飽きてしまったのかグダグダとしたようすで、僕の方になだれ込んできた。沖田さんは僕の膝の上に頭を乗せて、…そのまま寝ようとしているだと? 「ちょっと沖田さん!」 「少しだけ」 沖田さんのその一言に僕を押し黙らせるほどの説得力があったとは思わないが、抵抗をするのはやめた。なぜだかこのままにしてやりたかったのだ。青い空と白い雲、暖かい太陽の日差しは僕らをゆっくりと睡眠に誘う。そうして知らず知らずのうちに、…。 もぞもぞ、もぞもぞ。ぽかぽかとした睡眠に浸っていた僕は自分自身の身体に違和感を覚えて目が覚めた。 「おいいい!どこまさぐってるんですか!」 「そりゃあ、新八君のかわいい」 「言わんでいい!なんでこんな…!」 「一緒に寝た仲でしょう、これくらい別に」 「ただの昼寝だろうが!変な言い方しないでください!」 僕の袴を脱がせようとしている沖田さんはただの変態でしかない。今もまだ脱がせようとしているし、…もちろん必死に抵抗はしているけれど。こんなシーンを姉上に見られたら、本当にどうなってしまうか分からない。 「またまた〜お互いの気持ちは一緒じゃあないですかい」 「…お互いの、気持ち?」 先ほどまでの緊張とは違う、隠し事がバレてしまうような緊張。ばくばくと鼓動は少しずつ激しさを増す。 「先日、あんた山崎に聞いたじゃあないですか」 確かに僕は山崎さんに会って相談事をしたばかりだった。しかしきちんと口止めはしたはず。なのに沖田さんは知っている。なんのために僕は甘味代をおごったんだ! 「たとえば俺に好きなやつはいるのかとか」 「そんなこと、きき聞いてないですよ!」 「知らないとでも思いやしたか」 「…山崎さんから聞いたんですか」 「あんたの好きなやつについては口を割りやせんでしたけど」 「じゃあ、僕の気持ちなんて」 「生憎、俺は鈍感じゃあないんでさあ。特に自分が目えつけてるやつに関しては、かなり」 それは獲物を狙う狩人のような目付きで、正直どきりとしてしまったことは事実である。しかしながら。 「おいいい!なんで尻触ってるんですか!」 「まあいいじゃないですか、かわいいし」 「嬉しくねえんだよ、コノヤロー」 「あれ、泣いてる?泣いちゃってるの?」 「泣いてなんかないですよ!…沖田さんはどうしてこんな」 一言断っておくが泣いてはいない、しかし泣きたい気分なのである。相手の気持ちが分からない状態というのは不安でたまらないのだ。第一、沖田さんは僕をからかってるとしか思えない! 「すいやせん、苛めすぎやした」 沖田さんは少しだけおとなしくなった。少しだけシュンとして、それは何だかかわいい。 「好きな子は泣かせたくなるんでさあ」 「さらりと何言ってんだあんた」 「だけど好きだからこそ抑えなきゃあいけねえ、…あんたを大切にする気はあるんですぜ」 「待ってください。沖田さん、あんたは」 「言わないでくだせえ」 その言葉に含まれた感情を読み取ることは僕には難しかった。気づいてしまった自分の気持ちにまだ何の収拾もつけることができていない僕には。 「俺はずっと、ずっと、…俺にはあんたがまだ中途半端な気持ちにあるのは分かる」 「…僕は」 「あんたが腹くくれるようになったら言いやしょう」 「…いいんですか」 「俺はいくらでも待ちまさあ、た・だ」 「ただ?」 「これからは覚悟してくだせえよ」 「なな何を」 ずいっと顔を近づけて、にやりと一言。 「あんたを可愛く泣かせてみせやしょう」 モドル [戻る] |