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Remedy
「君の生き方を否定なんてしない」

あの修羅場を乗り越え、ひと段落ついたある日。
日も傾き、終業の鐘が鳴ると、一日の業務が終わった二人…シャルルカンと琥珀は、いつものように街へと飲みに繰り出していた。


「よっしゃ。今日はどこ行くか」

「……いつものところでいいんじゃないか?」

「えぇー。偶にはお前もさぁ……「悪いけど、僕はそういう店は行かない」


付き合ってもいない男女がベタベタするものじゃないって。


額に手をやり琥珀はぼやいた。
そんな彼を見たシャルルカンは相変わらずお堅いやつめと内心思った。
しかし、口には出さず、彼の希望通りいつもの酒場へと足を向けた。



・・・・・・・・・・



「お、いらっしゃい」


店に入ると、店主が出迎えてくれた。……どこか浮かない表情である。
その様子を不思議に思い店内を見渡してみると、そこにいつものような覇気と歓声はない。
いつもなら客同士騒ぎ合い、盛り上がっている時間帯であるにもかかわらず、店内はスッと水を打ったように静まり返っていた。


「あれ、今日客来てないのか……ってそういう訳でもない、よな」

「何かあったんですか?」


そう。決して客がいない訳ではない。むしろ繁盛していると言っていい程に席は埋まっている。
そんな店内の様子を、いぶかしげな様子で入り口に立つ二人に気づいた客たちはざわめきだした。


「シャルルカン様と琥珀さんだ!」

「助かったぞ……」

「琥珀さぁん、どうにかしてくださいよぉ…」


これはどういうことかと店主の方を見やると、彼の視線は店の奥へと注がれていた。
そして、その視線を辿っていくと、シャルルカンと琥珀の二人は合点がいった。

店の奥のテーブルには、水色の髪の若い女性と金髪の少女が並んで座っていた。
……彼らにとっても、この国の民にとっても、なじみのある二人である。
思わず二人は互いの顔を見合わせ、ため息をついた。


「……またか」

「あぁ。また、みたいだね」


面倒ごとに巻き込まれるのは御免だと引き返そうとした二人を、少女、ピスティが目ざとく見つけた。


「あ、シャルと琥珀!」


こうなってしまうと帰れないのは重々承知している。
二人は互いに顔を見合わせ、ふぅと息を吐き出すと、奥の席へと向かうことにした。


「……よぉ」

「ちょっと、二人ともぉ。ヤムの話を聞いてあげてよぉ」

「その、今回は何があったんだい。ヤムライハ」


そう言って琥珀は俯いて座る女性に声をかけた。
店の異様な雰囲気の原因だろう、水色の髪の女性、ヤムライハ。

自分たちが来るまでに相当泣いたのだろう。
目を真っ赤に腫らして、嗚咽をこらえていた。
その綺麗に整った顔は涙でぐちゃぐちゃになってしまっている。
そんな彼女を見て、二人は向かいの席に座った。


「また、振られちゃったのよぉ……。ぐすっ。うぅっ、私なんか、私なんかぁ!」

「あぁヤム、ごめんね! 無理して話さなくていいよ!
私が話すから……ね?」


涙ながらに語ろうとする彼女をなだめ、ピスティは事の顛末を二人に話した。
……どうやら今回の彼女の恋は、またしても惨敗だったらしい。


「なるほどなぁ…」

「けど、仕事とどっちが大事かって。八人将の人にそれをいうのは……」

「琥珀もそう思うでしょ!」


彼女、ヤムライハはシンドリアでもかなりの美人の部類に入る。
また、比較的親しみやすい性格であるし、しかも八人将として名を連ねるほどの実力の持ち主である。
異性にモテる要素は十二分にあるのだが………。

彼女は仕事命、魔法命の魔導師だ。
研究とあれば何日でも自室にこもりっきりだし、何より王に忠誠を誓う身である。
今回も、そのあたりがネックになったようだ。


「けどよぉ、空き時間があったって部屋にこもっちまうんじゃ、そう言われても無理ない……っ」

ゴスッ


そう言いかけたシャルルカンの足に衝撃が走る。
向かいに座るピスティに脛を蹴られ、隣に座る琥珀からはおもいっきり足を踏まれたのである。


((空気読めよ! 馬鹿野郎!))

「〜〜〜〜〜〜っっ!!」


あまりの痛みに悶絶するシャルルカンを無視して、ピスティはヤムライハに話しかけた。


「そんなに落ち込まないでよぉ……。ヤムは十分魅力的!
それに、何も悪くないんだから!! ね、琥珀」

「えっ!? あぁ、うん」

(ピスティ、なんでそこで僕に振るんだ!?)
(いいから、ヤムを慰めてあげてよ!!)
(そんなこと言われてもな……)


何を言うべきか琥珀が迷っていると、斜め前のピスティからの視線がぶすぶすと突き刺さった。
いいから早くしろと言わんばかりである。


「あー、その、だな……ヤムライハ。
君は自分の魔法に、生き方に誇りを持っている。そうだね」

「ぐすっ……。えぇ、そうよ」

「君の生き方を否定されるようなことを言われて、辛かったね」

「でもっ、私が仕事ばかりで、彼を放っていたのは、事実だわ」

「君のそういったところも含めて、受け入れてくれる人と……理解してくれる人と一緒じゃなきゃ、お互い幸せにはなれないよ。
君が悪いわけじゃない」


ざわついていた店内は再び静まり返っており、周りの客たちは耳をそばだて、二人の様子を見守っていた。


「シンドリアのために尽くしている君の生き方は、評価できるものだし……好ましいものだと思うよ。
大丈夫。君のことを理解してくれる人は、必ずいるから」


涙ぐむヤムライハにハンカチを差し出し、琥珀は言葉を紡いでいく。


「僕は、君の生き方を否定なんてしない。魔法に一生懸命な君が、好きだから。
また、話を聞かせてよ。その、今は辛いかもしれないけど……」

「……ううん、いいの。ありがとっ、ありがとう! 琥珀っ」


そう言ってハンカチで涙を拭い微笑む彼女の表情は、先ほどよりも晴れやかなものになったように見える。
どうやら、気持ちを持ち直してくれたようだ。
その様子を見て安心したのだろう。周りの客たちも、少しずついつもの調子を取り戻していった。


(なぁ。今のって口説いて……)
(琥珀のあれは天然だよ。いつものことじゃん)

(……あいつらが付き合えば円満なんじゃね?)
(ヤムはどうかわからないけど、琥珀にその気はないんじゃないかなぁ)

(…………)




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