Remedy
「俺に聞くことじゃありませんよ」
「よぉ」
「あ、お疲れさまです!」
シャルルカンが声をかけたのは、自身の部下である少年……司だった。
同郷だからだろうか。
コイツは琥珀に相当可愛がられているらしく、空き時間に個人的に稽古をつけてもらっている。
会話の様子からも、他の武官たちよりも親しげに接されていると感じた。
まだ幼さが残るが、槍の実力はかなりのもので新人の中でも有望株のひとりだ。
また、人懐っこい性分のようで、八人将である自分にも臆することなく接してくるため、自分もそれなりに構っていた。
要するに、可愛いがり甲斐のある後輩のようなものである。
「シャルさん…、今日も一人なんですねー」
一人でいるオレを見て、さも気の毒そうな視線を向けて言うコイツに若干イラッっときたのは仕方がないと思う。
理由を知っているだろうに、コイツは……。
わざとやってるだろ。
自分のいら立ちを察したのか、一緒に飲みにきていた司の同僚の女の子――確か文官だった――は後ろから司の後頭部を思いっきりどついていた。
どつかれた本人はというと、かなり痛そうに頭を擦って呻いている。ざまぁみろ。
「あぁ、そうだよ。それでよ、司。お前に聞きたいことがあるんだけど」
予想通り、声をかけた時点でおおよその見当がついていたのだろう。
彼はいまだに頭を擦りながら、一緒にやってきていた同僚たちに今日は帰る旨を伝えた。
「悪い、また今度な」
「気にする必要ないわ。琥珀さんのことでしょ?」
「ここのところ、八人将の皆様に対するあの人の態度は……我々から見ても妙ですからね。
そのせいか最近、ヤムライハ様も様子がおかしいんですよ」
「シャルルカン様!! こいつがお役に立てるのならいくらでもどうぞ!」
「そうですね。司、君はあの人と懇意な間柄でしょう。どうにかしてください」
「ほら、さっさと行きなさいよ!」
同僚たちに背中を押された司は、よろけるも踏みとどまりオレの隣に立つと、同僚たちを半目でみつめていた。
押し出した二人はそんな司の視線など気にも留めず、素知らぬ顔で手を振っている。
なんて言うか……仲いいなぁ、お前ら。
「おい、お前らなぁ…」
「じゃあ、コイツ借りてくぜ」
彼らに見送られ、代金を払い、店を出る。
外の空気は少し冷たく、酒を飲んで火照ってきていた身体には心地よかった。
「話と言われても……。あの人がああいう態度をとる経緯は知りませんよ?
むしろ、俺がシャルさんに聞きたいくらいなんですけど」
「あぁ、そっちはわかってるからいい。お前にもあとで話す。オレが聞きたいのは……アイツ自身のことだ」
オレの言葉に、司はピタリと足を止め、その場に硬直した。
立ち止まった彼はいぶかしげな、そしてどこか警戒心を含んだように、眉をひそめる。
「……それこそ、俺に聞くことじゃありませんよ」
「別に、詳しいところまで聞くつもりはねぇよ。ただ、ちょっと確かめたいことがあるんだよな」
アイツと同郷の、お前にしか聞けないんだよ。
頭1個分下にある瞳に視線を合わせた。
司は翡翠の双眸を細め、険しい表情をしていたが、やがて観念したかのように視線を反らし、大きくため息をついた。
そして、心底嫌そうな顔をして頭を抱える。
「だあぁ、もう!! 俺が話したことは、絶っ対に、琥珀さんには内緒ですからね!?」
あの人、怒ると本っ当に怖いんですから……。
何を思い出したのか、顔を真っ青にしてガタガタと体が震えていた。
一体、何をされたのだろうか。
……というか、その様子だと、マジで怒らせたことがあるんだな。
「もう、いいです。腹を括ります。とりあえず俺の家でいいですよね」
そう言って身体の向きを変え、別の方角へと歩き始めた司のあとをシャルルカンはついていった。
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