Remedy 「みつけた」 「きゃっ」 立ち止まり、何事かと視線を向けると、小さな女の子が倒れていた。 「ご、ごめん! 怪我はない!?」 明らかに、横道に気を配っていなかったこちらの不注意だ。 慌てて駆け寄り、女の子を抱き起こす。 どうやら、膝を擦りむいてしまったらしい。 なんとか泣くまいと堪えているようだが、痛みから目には涙がにじんでいた。 「うぅ…」 「あぁ、な、泣かないでっ! ホントにごめん! すぐ治すから!!」 今にも泣き出しそうな様子に、琥珀はすぐに腰に据えてある太刀に手をのばすと、魔力を込めた。 引き出され、鞘からわずかに覗いた八芒星から光があふれ出し、女の子の膝の周りがきらきらと淡い光に包まれる。 すると、みるみるうちに傷は塞がり、にじんでいた血だけが固まりとなって残っていた。 女の子はその様子を呆然とみつめ、涙もすっかり引っ込んでいた。 それを確認した琥珀は引き出していた刃を戻し、女の子を立たせてあげると服の汚れをはたいてあげる。 「ごめんね。余所見をしていたから。……他に、痛いところはないかな?」 俯く彼女に視線を合わせ尋ねると、女の子はバッと顔を上げ、琥珀の服の裾をぎゅっと引っ張った。 ……なんだか目がキラキラしているのは気のせいだろうか。 「おにいちゃんは、まほうつかいなんだね!」 「えっ!? いや、そういうわけでは……」 金属器を使う様子が、魔法を使ったように見えたらしい。 確かに、まったくの間違いという訳ではないが。 「あのね、ルーね、ママとはぐれちゃったの……」 「おてて、つないでてっていわれたのにね、ルーが、はなしちゃったからっ…。だからっ」 そう言っているうちに母親が傍にいないことに心細くなってきてしまったのだろう。 彼女……ルーは、だんだんと顔を俯かせ、再び目を潤ませた。 それを見た琥珀はルーをそっと抱き上げた。 「そっか、お母さんとはぐれちゃったのか……。でも大丈夫だよ。君はお母さんと、ちゃんと会えるから。」 「ぐすっ……ほんと?」 「ああ、本当さ! だって…」 お母さんは、たとえ離ればなれになったとしても、君を見つけだしてくれる。絶対にだ。 「ルー!! ルーチェ、どこにいるのー!?」 「ママッ!!」 通りの向こうから、女性が声を張り上げ、あちこちへ視線をさまよわせながら向かってきていた。 まだこちらには気がついていないようだが、おそらく彼女がこの子の母親だろう。 「ほらね」 「ほんとだ! おにいちゃんのいったとおりだ!!」 腕の中から飛び出し、満面の笑みを浮かべて母親のもとへと向かおうとする彼女を、琥珀は引き止めた。 「ちょっと待って。……これ、あげるよ」 袂から、先ほど購入した桃を差し出した。 「……いいの?」 「ああ。ぶつかっちゃったから、お詫びに」 お母さんと一緒に食べてくれると、嬉しいな。 そう微笑んで言うと、ルーは少し頬を赤く染めて俯き、桃をそっと受け取って母親のもとへ駆けて行く。 自分のもとへ向かうルーに気づいた母親は……安心したのだろう。 今にも泣き出しそうな顔で駆け寄り、我が子をぎゅっと抱きしめていた。 それを見届けた琥珀は、親子に背を向け、ゆっくりと王宮へ向かって足を踏み出した。 「ありがとう!! まほうつかいのおにいちゃん!」 驚いて振り返ると、母親と手をつないだルーが桃を持った手を大きく振っていた。 その隣で彼女の母親はぺこりと頭を下げている。 目を細め、小さく手を振り返すと、親子は手をつないだままもと来た道を歩いて行った。 琥珀もまた、王宮へ向かって歩き出す。 しまった。そういえば誤解されたままだった。 ……まぁ、いいか。 なんだろうな。温かくて、どこか懐かしいと感じるこの気持ちは。 こんな気持ちになるのは、すごく、久しぶりな気がする。 思わず、薄く笑みがこぼれる。 心の中は晴れやかで、あんなに重いと感じていた身体も軽くなるようだった。 …………………… 「ふふ…みつけた」 しかし、その様子を陰から窺い、怪しく笑う人物がいたことなど、彼は知る由もない。 [*前へ][次へ#] [戻る] |