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Remedy
「だからいいのさ」

ギイィと音を立てて扉が開く。
中にはシャルルカン、ヤムライハ、スパルトスの三人が控えており、周りには武官たちの姿も見える。
その表情はみな険しく、部屋の空気はどこか重苦しい。

そして、部屋の格子の奥には、拘束された数人の男たちがうずくまっているのが見て取れた。


「首尾はどうだ」

「それが、あれからは何も……」


シンの問いに、控えていたヤムライハが困ったように答える。
格子の向こうの男たちは、入って来た彼の姿を目に入れると、敵意のまなざしを向けた。

しかし、その後ろに控え、自分の隣に立つ人物の姿を見た途端、そのうちの一人の男はわずかに目を見開く。
すると、その姿を認めた琥珀はゆっくりと彼らの方へと向かっていった。

黒く長い髪の間から一瞬垣間見えた横顔は、冷たく、鋭く、そしてわずかに殺気を放っていた。
それはまるで、王としてのシンを思い起こさせるもので。
普段の様子からはとても想像がつかない琥珀の姿に、己の背筋が冷たく凍るのをジャーファルは感じた。

そして、そのまま武官に牢の鍵を渡すよう言うと、琥珀は扉をくぐった。

いくら拘束してあるとはいえ、一人では危険だと判断したのだろうか。シャルルカンも後に続いていく。
琥珀は先ほど自分を見て驚いたような表情をした、リーダー格と思われる男の前に立つ。
すると、男はにやりと唇をつり上げ、彼を見上げた。


「へぇ、話には聞いていたが……。まさか、本当にいるなんてな」

「自分のことなど、どうでもいい。敢えて大和の民だけを狙った理由、聞かせてもらおうか」

「理由? ハッ、聞くまでもないだろう。アンタらにものを作らせればなんだって高く売れる。違うか?」

「……否定は、しない」


大和の民は手先が器用で、金属、木材、鉱石などの加工技術の高さは随一と言われていた。
彼らが作るものは品質が高く、市場でもかなりの高値で取引される。
……だが、それも数年前の話だ。


「大和が煌帝国傘下に入ってから……。いや、滅ぼされてから、というべきか?
それからは、大和の製品がとんと出まわらなくなっちまったからなぁ」


男はにやりと唇の端を吊り上げる。


「国に留まらないで、外に出た奴らを捕まえてものを作らせる。
そうすればオレたちは儲かるし、商品を欲しがる貴族サマたちも大満足だ。いい話じゃないか」


言葉を吐き出すことを止めることはしない。
ベラベラとしゃべり続けるこの男に、私はえもいわれぬいら立ちと、嫌悪感を持たずにはいられなかった。


「それに、そうやって儲かってきたのはオレたちだけじゃねぇ。大和っていう国そのものだって、そうやってきたんだろ?」


そして、ついにその視線を琥珀からシンへと向けた。


「それは、シンドリアだって変わらねぇよ。結局は、どこにいたって、利用する人間が変わるだけ。そうだろう。なぁ?」


その言葉に、思わず私は袖の中に忍ばせた得物を構え、投げつけようとしたそのときだった。


「やめろ!! ジャーファル、シャルルカン!!」


制止の言葉に動きを止める。
ちらりと視線を動かすと、シャルルカンが怒りを露わにして、腰の剣に手を添えているのが視界に映った。

手を出すなという主の命に、私たちは渋々と得物を収めると、行き場のない憤りを晴らすように唇を噛み、拳を握った。
ヤムライハやスパルトス、周りの武官たちも…。
制止の言葉をかけたシン本人でさえ、決して穏やかな雰囲気ではない。

しかし、そんな周囲の様子など気にも留めないような、いたって冷静な表情で、琥珀はただまっすぐに、目の前の男を見つめていた。
……表面上、冷静に見えているだけなのかもしれないが。


どこから来たのか、取引先はどこの誰かなど、琥珀は淡々と質問を重ねて行く。
男は、何度か琥珀や我々を挑発するような態度をとってはいるものの、それらの質問に言葉を返していった。

あらかたの情報を入手し、ひと段落ついたかと思われたとき、ふいに男は何かを思い出したように、琥珀の瞳を覗きこんだ。


「それにしても……。アンタらの目は本当に綺麗だよなぁ」


確かに、琥珀の……大和の民の瞳は、東方の民族としてはかなり珍しい色をしていると思う。
その澄んだ緑の瞳は『翡翠』と形容されることも多いと聞く。
男の言葉に、琥珀は不快そうに顔をしかめた。


「それが、どうかしたのか」

「だからいいのさ。アンタらは働かせるのにも価値があるが……。
その目はさ、それはそれは高く売れるんだぜ?
その辺の宝石よりも、よっぽどなぁ」


その刹那、琥珀は動いた。



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