Remedy
「君はどうする」
シンドバッド王の言葉に、何も言葉が出なかった。
もう耳にすることなどないだろうと思っていた祖国の名に、懐かしさと、悔しさ、そして切なさ、あらゆる感情がこみ上げる。
第一、失踪事件が起きていたことなど初耳であった。何故、自分の耳に全く入ってこなかったのだろうか。
「そんな、どうして……」
「琥珀、海賊だと思われていたのは奴隷商だ」
「大和の民は勤勉で、器用なことで有名ですので……。狙われやすいと言えば、まぁ…そう、ですね」
理解はできるが、納得のいくものではない。
奴隷狩り?
今はシンドリア国民とはいえ、かつては自分がいた国の者たちだ。何も思わない訳がない。
琥珀は布団がしわくちゃになる程に、手を握りしめ、俯いた。
どうして、失踪事件のことを言ってくれなかったのか。
そして、何故、自分は気づくことができなかったのか。
やり場のない怒りを、どこかへぶつけたくてしかたがなかった。
「隠していたことは、謝ります。ただ、貴方のことです。
知れば一人ですべて解決するつもりでしょう。……そんなこと、させられません」
どこか後ろめたそうに話す彼に恨めしい気持ちが募る。
しかし、言われていることはまったくの図星のため、喉まで出かかった言葉をなんとか飲み込んだ。
その様子を見たシンドバッド王は、僕をなだめるように口を開いた。
「あまりジャーファルを責めないでやってくれ。君を思ってのことだ。……それで、君はどうする」
そう尋ねた彼は、普段の穏やかで、人好きな笑みとはかけ離れた表情を浮かべていた。
瞳の奥を光らせ、他人を試すような、見定めるような、そんな顔。
自分にとっては、より身近で、かつ過去を想起させるもの。
ぐるぐると自分の中で渦巻くものをぐっとこらえる。
そして、シンドバッドの瞳をじっと見据えると、琥珀は己の意思を言葉にした。
「ここにいるんでしょう。なら……」
ベッドの横に立てかけてあった太刀に刻まれた八芒星が、沈む夕日に照らされ、鈍く光を放っていた。
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