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Remedy
「彼には、責任がある」

琥珀が目覚め、熱も下がってきたことを確認した私は、彼の部屋をあとにした。

スパルトスが慌てて抱えてきた彼の衰弱ぶりには肝が冷えたものだったが、幸い、大事には至らなかったようで安心した。
ここ最近、政務の仕事も手伝わせてしまっていたし、疲れが溜まっていたところでの昨日の騒動である。
身体が冷えてしまったにちがいない。

話によれば、武官としての通常業務もきちんとこなしていたという。
何でもないことのようにやってしまうため気づかなかったが、知らぬ間に彼には無理をさせていた。
ジャーファルの表情には反省の色が浮かぶ。


「琥珀の様子はどうだ?」


壁にもたれて待っていたシンが声をかける。
その表情は、どこか堅い。


「一応、熱は下がったようです。疲労から来たものだろうと、医者も言っていました」

「そうか! それはよかった。……あまり扱き使ってくれるなよ、ジャーファル」


そう言うと、シンの表情が緩み、ホッと胸を撫で下ろす。
その様子から、彼も心配していたのだということがわかった。
……いや、待て。コイツ今なんて言った。


「アンタが仕事をしないからっ、琥珀を扱き使わなきゃいけなくなくなるんだろうが!!」

「うっ。わ、わかってるさ。冗談だって……」


シンは視線をうろうろさせて、ばつが悪そうに頬をかく。
まったく、この人は……。
説教のひとつやふたつしてやりたいところだが、今はそのことは置いておこう。
ただ見舞いをするためだけに、ここを訪れた訳ではないのだから。


「随分と、うなされていました。うわ言から察するに、まだ彼は……。本当に、この件を彼に話すつもりですか」


再び、シンの表情が堅くなる。
そして、暫し思案するそぶりを見せてこう言った。


「……その方が、琥珀のためになると俺は思う」

「しかし、シン!」

「ジャーファル。琥珀に知らせない訳にはいかないだろう。
過去を引き摺っているというのなら、尚更だ。
彼には責任がある。王の器としての責任がな」


そう言うと、シンは琥珀のいる部屋へと足を向けた。
その姿は、王としての威厳を出しながらも、どこか冷たいものを感じ、私は足を踏み出すことを躊躇った。

自分がこうして話すことを拒むのも、隠していたことに後ろめたく感じるのも、ひとえに琥珀に対する感情からくるのだとは、理解している。
事実、年はそれほど離れていないが、自分を実の兄のように慕ってくれている彼を、少なからず可愛がっている自分がいるのだから。

そして、この国のために犠牲になってほしくないとも、感じている。
以前、シンドリアのために命を懸けてもいいのだと、眉を下げて微笑んだ琥珀を思い出し、胸が締め付けられる心地がした。


自分たちは、琥珀の生き方を縛っているのではないか。
彼があの日求めた、”家族”であり続けることで、この国に縛り付けているのではないだろうか。


彼には、シンや自分のように、守らなければならないものが他にもあるというのに…。


しかし、今はそのことに気づかないふりをしなければならない。
この国を守るために、自分は目の前の背中についていくことしかできないのだから。
沸き上がった迷いを振り払うように首を振ると、ジャーファルは先を歩く主の背を追いかけた。

この話を聞いて、彼は何を思うのだろうか。
琥珀のことを思うと、ジャーファルの心は鈍く痛んだ。




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あきゅろす。
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