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妄想だもの
団地妻4雨天中止
     
【新婚編:雨乞い】


ギンはこの世の終わりのような風情で肩を落としていた。

夕べまでは天へも昇る気持ちでウキウキだったのに。

「残念だけどしかたねぇな、ギン。」

サンジはギンの落ち込みようを憐れんでいる。


かわいそうに、よっぽど釣りが好きなんだな。


そんな見当はずれの同情を向けていた。

ギンが落ち込んでいるのは、釣りに行けなくなったからではない。

「サンジ」と行けなくなったから、だ。

何度も何度もイカ釣りのお誘いをして漸くの約束を取り付けた今日、なぜ大雨なんだ。

天気予報も晴れって言っていたはずなのに!お天気お姉さんのウソつき!

「あの、明日はどうですか?」

「う〜ん、平日の朝はちょっと。ゾロを仕事に送り出さなきゃだし。」

「次のお休みはどうですか?」

「土日はジジィのとこに泊まりに行くんだ。ゾロと。」

ニコッと邪気のない笑顔のサンジはとてつもなく可愛い。

じいさんに会えるのがたまらなく嬉しいのだろう。

「その次のお休みは・・・?」

「んと、確か再来週は田舎にコメをもらいに行く予定。ゾロと。」

玄関口のカレンダーを確認してサンジは言った。

「そ、その次、は」

「おい!」

癇が切れたような声がサンジの後ろからして、ギンの声は消されてしまった。

「ちょっと待てって!マジごめんな。ずっと予定立て込んでて今日しか空いてなかったんだよな。」

ギンに詫びるサンジの後ろで機嫌悪そうにゾロが睨んでいる。

ギンも負けじと睨み返す。

そんな火花散る団地の玄関。

サンジだけが何もわかっていない。

「ギン、これ朝飯だけは作ったから持って行ってくれ。」

折詰に入った弁当を渡された。

サ、サンジさんのお手製弁当?!

マジマジと弁当の箱を眺めて、そっと受け取る。

すごく悲しかったけれどサンジさん特製弁当がおれのものに!

先日受けた施しの美味い朝飯が思い出され、幸せな気持ちが広がる。

「ありがとうございます。」

顔を上げてお礼を言うと、可愛い笑顔の肩越しに不敵な笑み。

ニヤリと口端を上げたその横に、逆さのてるてるボーズをぶら下げて見せている。

心なしか、てるてるボーズの目の下に濃いクマが・・・。

ギンはブルブルと震えながらも耐えた。

こんなことで怒ってサンジさんを困らせちゃいけない。冷静に、冷静に。

あいつのせいで雨が降ったわけじゃあるまいし・・・。

ギンは平静を装いながら、サンジに笑いかけた。

「サンジさんの弁当が食えるなら、今日は我慢します。またの機会に行きましょうね。」

「おぅ!そんときゃ、ヨロシクな。あ、その弁当ゾロが作ったんだ〜。」

「え”」

「おい!飯ぃー!!」

「はいはい!じゃあまたなー。」

バタンと扉が閉まる寸前、細い隙間から魔獣のように凶悪な笑い顔が見えた。




「さーて、おれも『ゾロ弁』喰っちゃうかな〜♪」

「ゾロ弁って・・・・。可愛いな、おまえ。」

「そぉ?はい、ゾロには『おれ弁』ね。」

「デザートついてるか?」

「てめぇ、そればっか!・・・ついてるよ(ニコッ)。今日は特別vv。」

「マジかよ?!」

「うん。ゾロが弁当作ってくれるなんて、すっげぇ嬉しかったから、サービスしてやんよ。」

サンジは本当に疑いを知らない無垢(身体はまぁ・・・ねぇ。)な箱入りさんだ。

ギンにサンジの手料理を食べさすまいとするゾロの手段だとは到底思いつかない。

結果オーライ。

これでサンジが喜んで可愛い顔を見せてくれて、おまけにサービスまでしてくれるという。

ゾロは逆さてるてるボーズをサッとゴミ箱に投げ入れた。


「サンジさん・・・ぐすん。」

泣きながらギンは弁当を喰った。

あの魔獣の手作りと思うと胸焼けがしそうだったが、食べ物を粗末にしちゃいけない。

サンジが一番大事にしていることだ。


「サンジさん・・・。」

再び、サンジの名を呼びながら天井を見上げる。

ギシギシと天井から床が鳴る音がし始めた。


ギンの家は団地の10階、上の階はロロノアさんち。

今週の休みも、朝からお盛んな雰囲気が天井から漏れていた。

「ううぅ・・・サンジさーん・・・。」

ちゃぶ台に顔を突っ伏して、今日もギンは号泣する。




雨が降ったのはゾロの気合いのせいです。


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あきゅろす。
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