敦様(相互記念) ニルティエ学パロです。 文章を頂いたのがはじめでとても新鮮でした!!敦さんの文は淡い桃色が似合うと思います、とてもきゅんきゅんするのです〜 学パロとか無茶ぶりすみません>< 泣きティエはもう無条件で萌えですよ!! あなたと補習授業 出席日数が危うい。 薄々感じてはいたが、まさか留年ギリギリだとは思っていなかった。 成績がいいだけでは進級できないと言われ続けてはいた。 しかし。 「……補習…だと?」 このぼくが? 受話器を取ると、担任であるスメラギ・李・ノリエガから「明日の午前9時から、社会科室で補習よ。出席日数を補うものだから、受けない場合は残念だけど留年ということになるわ。春休みだけど、頑張って来てちょうだい」と告げられた。 社会科に授業を割くなど下らなすぎてため息がでる。テキストを読んでいればこと足るような教科だ。 しかし、今の時代まずは高校を卒業しなければその先はないに等しい。留年ギリギリでもとりあえずは進級すればいいのだ。 「すみません、補習というのは貴方が指導してくださるのですか?」 『いいえ。そう言えばティエリアは一度も社会科の授業受けてなかったわね。担当はロックオン・ストラトス先生よ。名前くらいは聞いたことあるかしら』 ロックオン・ストラトス……。男性か。 「いえ…。………ありがとうございました」 『緊張しなくても、いい先生よ。わたしが保証するわ』 受話器の向こうでウインクをしている彼女の様子が浮かんだ。ほんの数えるほどだが、スメラギ・李・ノリエガには何度か会ったことがある。 「…わかりました。ありがとうございます」 ◇ 久しぶりに制服の袖を通し、登校する。今日から春休みということもあり、電車内は思ったより混んでいなかった。 「社会科教室……」 校内をぐるりと一周回ってやっとたどり着いた。普段登校していないと教室を覚えられない。 「…ロックオン……ストラトス…?」 半ばぐったりとしながら社会科教室の扉を開けると、すぐ手前の椅子にスーツを着込んだ男が座っていた。緩くウェーブのかかった淡い茶髪に、エメラルドグリーンの綺麗な瞳。一般的に見て端正な顔立ちをしている。 「お前がティエリアか?こりゃまた…美人さんだな」 ロックオン・ストラトスらしき人物はぼくを上から下までまじまじと見ながら目を丸くした。初対面の相手をじろじろと見るなど、失礼な人だ。 「貴方がロックオン・ストラトスなら話は早い。早く補習を始めてください。あまり意味のないことに時間を割きたくない」 それだけ言い、手短な席に座ると、ロックオン・ストラトスはぼくの一つ前の席の椅子に移動し、机を挟みぼくと向かい合う形で座った。 「お前さんひとりだけだからな」 何が楽しいのか、笑みを浮かべたままテキストを広げる。 「先生は、補習なんてしたくないんじゃないですか」 「―――何でそう思う?」 急にそんなことを言い出したぼくに、向かい側の男は目を丸くした。 「他に仕事があるでしょうし、たったひとりの生徒のために時間を縛られるのは不快でしょう」 「まぁ、他の仕事がないって言ったら嘘になるが…」 「補習をしたことにするのはどうでしょう。ぼくも貴方も一応ここにいれば補習をしているように見えるでしょう」 言うと、ロックオン・ストラトスはあからさまに表情を曇らせた。 「それは却下だ。お前、真面目に見えて不真面目だな」 心外だ。 「ぼくはただ社会科などという教科よりもほかに勉強したいことがあるだけだ」 目の前に座る男を睨みつけながら言うと、「ガキの屁理屈」と苦笑された。 「いいから、さっさと始めんぞ」 半ば強引に補習授業がはじまった。 ◇ 1対1の補習も五日目ともなると段々と慣れてくる。ロックオン・ストラトスという男は何が何でもぼくに補習を受けさせたがり、それにはこちらが折れた。 はじめは、お互い時間を潰されるばかりの補習をすることに何のメリットがあると不満ばかりだったが、最近は彼の話を聞くのも苦痛ではなくなってきた。 彼は補習の合間に色々な話をする。 ぼくの知らないクラスメイトの話から、彼の弟の話まで。 「お前のクラスにアレルヤっていんだろ」 「アレルヤ………。すみません、顔と名前が一致しない」 あまり登校しないぼくは、クラスメイトの顔と名前も把握していなかった。それを聞くと、ロックオンは「ひでぇな」と笑った。 「あいつ、穏やかな顔して隙あらばいっつもお前さんの席見てる」 「それが…何か」 ぼくは、彼が何を言いたいのかわからずに首を傾げた。すると、ロックオンが指だけで器用に回していたシャープペンシルがノートに落ちた。 「お前…案外鈍いな……」 「は?何ですか?」 いやいやこっちの話、とロックオンはくしゃりとブラウンの柔らかそうな髪を右手で乱した。 「あ、そうだティエリア」 「はい」 「俺明日だけちょっと出張入ってんだ。だからえっと、次の補習は明後日な。それで最終だ」 「―――――」 ―――最終。 煩わしく感じていた補習ももう残り一回で終わりなのか。彼と二人の授業も………? 「おい、ティエリア?どっかにメモっとかないと忘れねぇか?明日はなくて明後日、な」 ロックオンにそう言われ、ぼくはハッと我に返り、咄嗟に机の横にかけていた鞄からメモ帳を取り出した。 ◇ 一体ぼくの知能はここ一週間でどれだけ悪化したのだろう。 「……昨日メモまでしたというのに…」 社会科教室は当然のことながら鍵がかかっていた。ほん昨日、「明日は出張があるから補習なし」と言われたばかりなのに。 しかしわざわざ学校まで足を運んだのだから自主学習くらいはしていくか。とりあえずこの場にいるのが恥ずかしい。 ぼくは早々に踵を返し、三階の社会科教室から二階の図書室へと移動するために階段を降りようとした。 が、三階のほぼどの角度から見ても死角になるであろう場所に担任の姿らしき影を捉え、足を止めた。 「スメラギ・李・ノリエガ?」 春休みだというのにご苦労なことだ。教職員に休みはないと言うが。一応挨拶くらいはしておくか。 「スメ―――――」 「お、ミス・スメラギ」 ―――ロックオン…ストラトス………? 「ごめんなさい、少し遅れてしまって」 「いや。俺も来たばっかだし、気にしなさんなよ」 ―――出張?出張。用務のため、臨時に普段の勤め先以外の場所に出向くこと。 何故彼がここに。 何故―――スメラギ・李・ノリエガと…。 いや違う。そこではない。何を考えているんだぼくは。 スメラギ・李・ノリエガとロックオン・ストラトスがどういった関係でもぼくが知ったことではない。 それよりも出張と嘘を吐き職務を怠慢し、挙げ句他人と逢い引きをしているというのが問題だ。補習といえど授業を放棄したも同じ。 そうだ。そこだけに問題があるのであって……――――。 「――――っ」 ―――違う。 違う。 そうではない、違う。 授業を放棄されたことも腹立たしいが、それ以上に………。 「…ぼくは…彼女に嫉妬……しているのか……?」 ◇ 結局昨夜は深い睡眠がとれず、ふらつく体を叱咤して登校した。 昨日スメラギ・李・ノリエガとロックオン・ストラトスが逢い引きしていた角を曲がり、社会科教室の前に立つ。 鍵はあいている。 だが足が動かない。 「お、ティエリア?何突っ立ってんだ。早く入れよ。始めるぞ」 「!」 不意に後ろから声がし、振り向けばいつもと何ら変わらないロックオンの姿。昨日のことがなければ素直に一日ぶりの再会を喜べたのに。 「…どうした?元気ないな」 心配そうに額に伸ばされる手を反射的に払い落としてしまった。 「……っ、いえ!大丈夫…、です。早く終わらせてしまってください」 きっと嫌な生徒だと思われた。 だがこの補習が終わればまたぼくは不登校児に戻るし、彼はみんなの先生に戻る。それに何より彼はスメラギ・李・ノリエガの恋人なのだ。 「んじゃラストな。テキスト58ページ開けー」 「…はい」 ぼくと彼の補習があったこの一週間が異常だったのだ。 それに、二年もそのまま彼がぼくの授業を担当するとは限らない。明日からまた普通の生活に戻れば彼のことなど……。 「………………っ」 パタリ。 視界が歪んだ次の瞬間、テキストに透明な染みができた。 「―――ティエリア?」 「…………っ、……」 いきなり泣き出して、面倒くさい生徒だと思われたくない。だが止まらない。 眼鏡を外し、両手で顔を覆って嗚咽をこらえようと試みた。しかしそれも失敗に終わった。 「ち、ちょ、どうしたんだよ…っ」 何でもないと首を横に振るも、彼は焦ってしまっている。 ごめんなさい、ごめんなさい。 「ごめ……な…さ……っ」 「………っ、どうしたって聞いてんだろ。言ってくれねぇとわかんねぇ」 「―――――」 くしゃり、と大きな手がぼくの頭を撫でる。 彼は優しいから……また勘違いしてしまう。 「何でも……っ、ない…です」 「何でもないことないだろ。ミス・スメラギと俺が昨日会ってたことが気になったって言えよ」 やはり泣いてしまっては隠し通すことはできないか。 ――――って。 「あ…、あなた…っ、昨日ぼくが学校に来てたこと……!」 「知ってるぜ。俺も、ミス・スメラギも。あんなにじっと見つめられたら嫌でも気付く」 「―――――っ!」 穴があったら入りたいとはまさにこのことか。昨日の失態は一生掘り起こさないでおこうと誓ったばかりだというのに、よりにもよってこの男に…っ。 ショックで涙がとまってしまった。 「出張だっつったのに登校してきたのは予想外だったな。そんなに俺に会いたかったのかよ」 「な…っ、違う!ここ何日かずっとそういった生活だったので体が勝手に…!」 「体が勝手に俺に会いたがった?」 「………っ」 彼はこのような男だっただろうか。いや、今急に意地悪になった。 ぼくの髪をいじりながらやわらかい笑みを向けてくる。反則だ、そんな仕草。 「まぁ…、昨日のは、嘘ついて補習しなくて悪かったと思ってる。補習授業してるうちにお前のこと…生徒以上の目で見ちまって。でもお前、あのアレルヤの気持ちにも気付いてないっぽかったからどうやったら気付いてもらえるかとミス・スメラギに」 「話が…見えないのですが」 ぼくが急に早口に話し出すロックオンの言葉を遮ると、彼は困ったように笑った。その笑顔に見とれていると、不意に胸元のリボンをゆるく引かれ、唇にやわらかいものが触れた。 ほんのりとブラックコーヒーの香りがする。 「―――――…こういうことだ」 「……っ」 至近距離にある彼の瞳にぶつかり、思わず勢いよく俯く。 体が熱い。夢みたいな柔らかさ……だった。 「だが何故スメラギ・李・ノリエガに相談など」 「おいおい、お前の担任の先生だろ」 違う、そうじゃないといった意味をこめて首を左右にふると、ロックオンの白い頬はほんのりと朱に染まった。そのまま髪をくしゃりと混ぜ、彼も俯き気味になってしまった。 「…あのなー、俺だって普通の男だ。お前に嫌われるようなことしてんじゃないかとか、不安だし、それにその…、教師と生徒ってのは大きいし……」 「――――」 何だか力が抜けてしまった。 ぼくに嫌われていないか不安に思ってスメラギ・李・ノリエガに相談しただと? 呆れた。そんなことなら直接ぼくに聞けばいいのに。そうしたらぼくもこんな不安にならなくてよかった…のに……。 「………っ、…」 「ぉお!?ど、どうしたんだよ!」 「いえ、何でもありません…」 目尻をやさしく拭う、ぼくよりも少し太く硬い指。それがぼくを笑顔にさせることを、彼はわかっているのだろうか。 「そっか。で…でよ、俺返事聞いてねぇんだけど」 ぼくの涙を拭いながら真っ赤になるロックオンを見て、これでは先ほどと立場逆転だと思い、小さく笑った。 「好きですよ、どうしようもないくらい、あなたが」 高鳴る胸の鼓動に後押しされたぼくがそのまま彼の唇を奪うと、グイ、と後頭部に手を滑らされ、より深いものとなる。 そのときに彼の細められた瞳を見て、ぼくは幸せをかみしめてゆっくりと瞳を閉じた。 END. |