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白菊の路に
香る匂いは






長いこと寒いところにいた気がした



私、死んだのかな?

と我ながらネガティブな言葉を胸の中で浮かべる


でももし死んだとすれば、こう思うこともないわけで

まだしぶとく生きているということを知る




瞼が重くて真っ暗な視界に光を入れることは叶いそうになかったけど

辛うじて機能している様子の聴覚で音を入れようとする









−もう少しで目を覚まされると思います。

−そうか、ありがとう卯ノ花。

−いえ。目を覚まされたら呼んでください。

−わかった。











卯ノ花隊長…と日番谷隊長?


2人の声で私が今四番隊にいることを知る



まだぼんやりとする意識の中で

左手が動かせることに気づき


ゆっくりと自分の存在を主張するかのように

左手をあげた






「…月城?!」



私の左手を隊長の両手が包むのを感じて

ああ乱菊さんに悪いな、と思いながらも


隊長独特の冷たい体温に安堵する




「たい…ちょ…」


「よかった。お前5日も目ぇ覚まさなかったんだぞ」


「5日…?」




隊長に左手を包まれたまま

徐々に本来の動きを取り戻してきた脳で

一番気にしていた言葉を紡いだ




「修兵…さん…は?」


「…大丈夫だ。今九番隊隊舎にいるはずだ」




私の質問に苦笑した隊長は

少し動揺を目に浮かべながらそう言った




あぁ、気づかれたかな




そう思いながらも

よかった、と呟いて軽く微笑んだ



別に隊長なら知られてもいい、そう思ったから




「たいちょ、手、」


「あぁ…悪ぃ…」





私の手を包んでいた冷たい体温が遠ざかる






「隊長…」


「なんだ?」


「すいませんでした…迷惑かけて…」


「…馬鹿かお前は」





隊長はそう言って私のおでこをサラリと撫でる





「檜佐木も俺もお前のおかげで

 あのアジューカスに気づいたんだ。」


威張られたり、
礼を言えって言われる筋合いはあっても

謝られる筋合いはねぇぞ





隊長はそう言って両足に力を入れて立ち上がる





「俺はもう行く。
 
 退院したらたっぷり仕事してもらうからな。

 それまでお前はゆっくり休んでろ」




じゃあな、と軽く手を振った隊長は

足早に部屋と廊下をつなぐ扉を開けて

十番隊隊舎に戻って行った









隊長が出ていくと同時に

私はもう一度静かに目を閉じた




体は鉛のように重くて、自分の傷の大きさを実感する






早く復帰しないと隊長が過労で倒れちゃうなぁ…



そうぼんやりと考えながら

私は眠ろうとゆっくり目を閉じた









ふいに感じた、霊圧


いつのまにか眠っていた私はゆっくりと目を開け

その姿を確認する






「修へ…さん?」


「…よう」


大丈夫か、と優しげな目に己のそれを見つめとられた私は

ゆっくりと頷いた




「すいません、仕事…忙しいのに…」


「別に気にすんな。

 つか俺のほうが謝らなくちゃなんねぇしな」




修兵さんはそう言うと


ごめん

と頭をたれながら悔しそうに言った






「俺の背中かばったせいで傷つけちまって…」


「いいんです」



言葉をつづけようとした修兵さんを遮って

自らの言葉を重ねる







「修兵さん、無事ならいいんです。」







すきだから

どうしようもなく、あなたがすきだから





私は静かに微笑んで修兵さんにそう心の中で伝えた






「だから、いいんです」




そう言った私に少し笑んだ修兵さんは

私の頭をやさしく撫でた


その掌をどうするでもなく甘受していた、のに





そのときに開け放っていた扉から入ってきた、風



その風が修兵さんの髪を靡き

私の鼻孔にその馨を残した








「…修兵さ、ん」


「何だ?」


「わざわざお見舞いしてくれて、ありがとうございました。

 もう、大丈夫なんで仕事に戻ってください!
 
 あ〜ほら!もうすぐで〆切だって聞いた…し…」




私はそう言って俯きながら

頭に乗っかっていた修兵さんの右手を

勢いよく引き剥がす





「…千春?」


「ほら!行ってください!」


「?あ、あぁ…」




勢いよくそう言った私に圧されてか

修兵さんはまた来る、と一言残して


扉をくぐって隊舎に戻って行った









その姿を霊圧で感じた私は

俯いていた顔を少し上げた






「……ッ」





それと同時に流れる涙を

勢いよく右手の甲で拭いさる



頭に、まだ少し残る修兵さんの温もりに

心が胸が悲鳴をあげる








あのとき、風に乗って香った匂いは

紛れもなくあの人の香水の香りだった



いつも私が守るべき女性

十番隊の全死神の憧れの的の一人

修兵さんがずっと想い続けている女性






普通に喋ったりしているだけじゃ

あんな風に修兵さんからあの人の香りが漂うなんて、ない



修兵さんよりも確実にあの人と接している時間が長い私でさえも

自らの身体からあの人、乱菊さんの香りを感じたことはないもの








わかっていたはずなのに

わかっていたはずなのに



あの人の気持ちは、私にはないってこと





それなのに、それなのに


あの人が私に優しく話すから

あの人が私の頭を優しく撫でたから




もしかしたら、なんて思ってしまう





思わせぶりな行動

優しすぎる行動







嬉しいはずの仕草さえ


今の私には狂おしいほどの痛みに変わる







どうすれば、いい?

こんなに好きな気持ちはどうすればいいの?












心の問いかけは涙と共に

純白に染め上げられたシーツに染み込んで

その答えを出さなかった













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あきゅろす。
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