魔法少女リリカルなのは
AQUARIUS
第1話……4
息を切らせ、玄関前まで駆けてきたすずかは扉を開こうと手を───、
手を…………。
「両手とも、塞がってる……」
今現在両の手は、子猫、ひよこ、宝石箱を抱えており完全に使えない状態だ。
なら、少し横に除けておけばいいだけなのだが、焦るすずかにはそこまで思考が回らない。
「ノ、ノエルー!ファリーン!誰かー!」
声を上げて家の中に居そうな二人を呼んでみるが、この屋敷は広い。
少女の細い声では、奥までは届いていないだろう。
「すずか?どうしたの、そんなところで」
後ろからの声に振り向けば、そこにはすずかに良く似た───いや、数年立てばそっくりになるであろう女性の姿。
「お姉ちゃん!」
納得。
というか、これだけ似ていれば他人の方が珍しい。
すずかの姉───月村忍は、玄関を開け妹を中へと促す。
「ノエル!ノエルはいないの!」
パンパンと手を叩き、メイド長を呼びつける忍。
「───おかえりなさいませ、忍様。それにすずかお嬢様も」
「それよりノエル!このコを見てあげて!」
片方で差し出した手の中でぐったりとしているひよこを見たノエルは、優しく頷くとすぐに踵を返し、その小さな生命を救うべく行動を開始したのだった。
「特に目立った外傷はありませんし、多少の擦り傷と衰弱程度。ゆっくりと休ませればすぐ良くなるでしょう」
そう言って、ノエルは小さなバスケットに沢山の布を敷き詰めた簡易ベッドにひよこをそっと横たえた。
「そっかぁ。よかった……」
それを聞いてほっ、と胸を撫で降ろす。
詳しい経緯は解らないが、彼は自分を救ってくれた恩人だ。
こんな形でも、少しは恩を返せるなら安いもの。
すずかは静かに吐息をたて、眠っているひよこを眺め静かに目を伏せた。
「しかし。珍しいですね」
「な、なにがかにゃ?」
いきなりの言葉に思わず語尾を噛んでしまうすずか。
しかし、ノエルの意識はひよこの方にあったせいか、特に気にした様子もなく言葉を続ける。
「“黒いひよこ”など聞いた事も見た事もありません。アルビノのように、色素に欠陥がある子なのでしょうか」
「さ、さぁ。私は見つけただけだし、そういうのはちょっと」
視線を明後日の方向に逸らし、何とかごまかす。
が、その時になってようやく、メイド長の目に危険な光が燈っていたのに気がついた。
「か、解剖とかしちゃダメだよっ?!」
ノエルははっ、と顔を上げ珍しく焦ったように、
「そそそそのようなことは考えていませんっ!」
だが、普段は冷静な彼女がこれほど取り乱して慌てるとは。
一抹の不安を抱えたまま、すずかはノエルに困ったような笑顔を送ることしかできなかった。
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