魔法少女リリカルなのは
AQUARIUS
第1話……3
それと同時、巨大なかたつむりは完全に掻き消えその足元に普通のサイズに戻ったかたつむり、そして宙に浮かんでいた深紅の結晶が、地面に弾かれすずかのいる茂みヘと転がってきた。
「こ……これって先刻の……?」
足元に転がるソレを恐る恐る拾い上げようとしたすずかに、
「バカやろうっ!迂闊に触るなっ!!」
何時の間にか立ち上がった少年の怒号が飛ぶ。
びくっ、と反射的に手を引っ込めたすずかだったが既に遅かった。
深紅の結晶は再び宙に浮き、
「───あ」
すずかの身体に吸い込まれた。
「あ───あ……!」
視界が、紅く染まる。
「ああ───う……ぁ!」
血液が逆流する。
「あああああ───!」
そして、ドクンと
心臓が跳ねた。
「あああああああああああああああああああああああああああああ!!」
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い。
なにもかも痛い。
痛く感じることが既に苦痛。
捨ててしまいたい。
痛みも
身体も
意識も
なにもかも───
「気をしっかり持て!自我を捨てちまったらおしまいだぞ!!」
先程の少年が、何時のまにか鈴鹿を抱き抱えていた。
「間に合えよ───!」
言って緑青の結晶体をすずかに押し当て、言葉を紡ぎ始めた瞬間、
痛みも、なにもかもが消えた。
己の自我もある。
すずかは押さえていた胸を撫で下ろし、ほぅと一息、
───ついてる場合じゃなかった。
眼前では少年の作った光の陣とぶつかり合い、深紅の結晶が壮絶な火花を巻き散らしている。
相対する少年の顔は必死。
しかし結晶はゆっくりとその身を光陣の中へ中へと納めていく。
「く───そ!今度は───オレに、寄生する気か───よ!」
少年は両の腕に更に力を込めるが、それもお構い無しに深く沈み込む結晶。
「な───?!」
驚愕の声を上げる少年。
でもそれをただ、呆然と見る事しか出来ないすずか。
焦る気持ちとは裏腹に、脳裏では自分は何も出来ない事を冷静に判断している己がいる。
(なにか───何か手伝える事は)
「なめんなああぁぁぁっ!」
突然の絶叫。
すずかは一瞬で現実に引き戻され、そこでまた信じられない光景を目にした。
先程まで光陣の真ん中まで来ていた紅の結晶体が、ゆっくりとだが押し出されてきていたのだ。
「おおおおおおおッ!」
さらに強く、激しく光を巻き散らしていく。
そしてついに、光陣が結晶体を押し出した。
「ざまー……み…ろ」
そこで完全に力尽きたのか、少年は後ろに倒れ込んだ。
すずかが慌てて駆け寄りその身体を抱き上げようとした瞬間、
「何───コレ」
少年の全身が閃光に包まれ、それが小さくなっていき、閃光が治まった後に残ったのは、
「黒い───“ひよこ”?」
手の平に収まる程の小さな“ひよこ”だけ。
とりあえず、そのひよこと子猫、宝石箱を拾い上げ───気付く。
さっきの深紅の結晶体がない。
確かに先程はそこに有ったはずなのに。
代わりに視界に映ったのは、
少年の持っていた緑青色の八面体。
ソレを恐る恐るゆっくりと掴み上げて見る。
「───温かい」
醒めるような青い結晶は見た目に反し、どこか優しい温もりを帯びていた。
そしてそれもポケットに仕舞い込んで、すずかは屋敷に向かって駆け出した。
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