魔法少女リリカルなのは
AQUARIUS
第1話……2
「みんな、おいで」
中庭の白いテーブルの周り。
思い思いに戯れていた猫達が、その声を聞き一斉に集まってきた。
「ペルにティンク、ファナ、アティ、レン───」
1匹1匹、指差し点呼を行うすずか。
柄や模様の似ている猫達が居るにも関わらず、呼び上げる名前には何の迷いも無い。
「───アイン、と。あれ?ニアはどこに行ったの?」
その場に居た最後の1匹を数え終わった時点で、すずかは1匹の子猫がいない事に気付いた。
いつもなら先程呼び終えたアインという子猫と、テーブルの下でじゃれ合っているはずなのだが。
「茂みの奥に入っちゃったのかなぁ」
いくら人の手が加えられている場所とは言え、子猫一匹では何があるかわからない。
すずかはきゅっ、と唇を引き締めゆっくり茂みの中へと入っていった。
「ニアー、何処に行ったのー?」
辺りを見渡し周りの薮を覗き込んだりしながら捜索を続ける事、数分。
ちりん、と言う鈴の音に「にぁー」と小さな泣き声を耳にしたすずかは、身を低くして更に廻りを伺い始める。
そうして見れば、少し先の薮の中に身を丸めて欠伸をする子猫の姿。
安堵の息をつき、低い姿勢のままでゆっくりと子猫に近づいて、
「捕まえ───た」
逃げられない様にしっかりとお腹を抱き抱え、すずかは子猫に愛おしいほど頬を擦り寄せた。
「もぉ、ニアったら。心配したんだよ」
子猫は「にぁー…」と緊張感も無いままにまた欠伸をして、そのまますやすやと寝息をたて始めた。
そんな様子に微笑みを讃えたまま、屋敷に戻ろうとしたすずかの耳に、僅かな、本当に僅かな誰かの“声”がとどく。
「………───!!」
間違いない。
誰かが何かを叫んでいる。
それに合わせる様に、小さな振動がゆっくりと近づいてきて───、
ず……ん!!
一際大きな揺れと化した。
バランスを崩して近くの茂みに倒れ込むすずか。
それとほぼ同時、眼前に一人の少年と信じられないモノが現れた。
「か……かたつむり?」
そう。
それは見違うごと無く“かたつむり”だった。
しかし、異常なのはその大きさ。
軽く見積もっても2mはあるだろう。
そんなかたつむりが、歯舌───口に当たる部分をむき出しにして目の前に居た少年に襲い掛かった。
しかし、少年はそれを何事も無い様に半身を捻るだけでかわし、右手を大きく振りかぶり、
「遅いんだよっ!ウラヌスバインド!」
少年の声に応えるように、振り抜いた右手から灰色の光の円陣が描かれ、円の中心からいくつもの鎖が生み出される。
鎖は巨大かたつむりを完全に拘束し、その軟らかな体を大地へと括りつけた。
「ぃよしっ!“クアドラ”、出番だ!」
彼は右手をかざしたまま、左手で緑青色の八面結晶体を取り出し、静かに目を伏せ“力ある言葉”を紡いでいく。
「デモンズブラッド───“浄化”!」
結晶体からまばゆいばかりの光が溢れ、巨大なかたつむりを包み込む。
そして、ゆっくりとそれが熔け始めその身体の中から、血を塗り固めたような深紅の結晶が現れた。
「ビンゴだ。回収させてもらうぞ!」
少年は鎖を発生させていた右手を腰の後ろに回し、そのポーチに入っていた宝石箱のようなものを取り出し、蓋を開く。
しかし、この判断は早急過ぎた。
完全に熔け切っていなかった巨体は、力が緩まった瞬間を見逃さずその身体を大きくくねらせ、少年を大きく弾き飛ばす。
「しまっ───?!」
咄嗟に眼前に張った光の壁で、攻撃自体のダメージは無かったが勢いを殺せぬまま、少年は地面に叩きつけられそのまま大地を二転三転してようやく、その動きが止まった。
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