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魔法少女リリカルなのは
AQUARIUS
第3話……8

《やったぁぁぁぁあああ! ──んだよな? なんかもう途中速すぎてまるでさっぱり見えなかったが!》

《見えていないのならそんなに騒がないでほしいのですが》

 興奮気味に語るディーに、相も変わらず冷静に状況をモニターしていたクアドラのやや溜め息混じりの冷たい言葉が飛ぶ。

《うるせーよ! てかそういうてめぇは見えてたのかよ、あぁん?》

 下から斜め45度、ややチンピラ風な感じでクアドラにメンチをきるが、

《当たり前でしょう。無能、無自覚、無抵抗の三点セットなひよこと違って私はマスターを敬愛して止まないデバイスですよ? 先程の勇姿諸々既にマイメモリに永久保存済みです》

 それを全く気にも留めず、辛辣なまでのひよこへの侮蔑とマスターへの偏愛を口にするデバイス。
 それに対する怒りと顛末がよく分からない悔しさからディーはギリギリとくちばしを鳴らすが、クアドラはそんなものなど全く無視して先程の攻防をメモリから引き出し、もう一度すずかの動きをトレースし直してみた。

《圧倒的に不利な状況、そこでマスターが取ったのは飛び道具に依る死角の形成。更には二手三手を絡めた連続攻撃で一瞬優位に立ったように見えましたが》

 クアドラが内部で再生している先程録画した映像、そこには隙を作らされたノエルにすずかの掌底が迫るのを鮮明に写し撮っていたのだが、

《……やっぱり“消えて”ますね。高速移動ではなく短距離転移の類ですかねこれは》

 どれほどスローで再生しようとも、この瞬間のノエルの行動だけは全く不可解であるとしか言えなかった。

《いきなり消えて次の瞬間にはマスターの横、ですか。……本当に魔導師じゃないんでしょうね?》

 このデバイスにしてはやや決定力に欠ける口調だが、

《まぁ、メイドなどどうでもいいのです》

 ものの1秒で切り捨てた。そして本当に無視してそのまま次の映像を確認し始める。

《マスターは攻撃を振り切った無防備状態、対するメイドは片手が塞がっているとはいえ、立ちからの全コマンド受付可能状態なわけですが》

 5分の1フレーム間隔でのスロー再生の中、ノエルの身体が半身前へ出てその右手がすずかに添えられた。

《硬直中のマスターにはこれをかわす術は無く、本来ならここで決着がつく筈でしたが》

 映像の中、終幕を告げる一撃を放とうとしたノエルが、なにかしらの驚きと共にバランスを崩した部分──クアドラは映像をそこで一時停止する。

《ここでマスターの“賭け”とも言える罠が発動、と》

 あの時、ノエルに決定的な隙を作らせたもの。倍率を上げ、2人の姿を大きく映したそれに全ての答えがあった。

《三つ編みにした“髪の毛”。……これが最後の策とは、お見事です》

 つまりはこうだ。
 攻撃が避けられまともな行動の取れないすずかは、慣性で浮き上がった髪の毛を微妙な首の動きだけでコントロールしてノエルの視界を奪った、と。

 普段のすずかは髪を下ろしているが、運動時には動きやすいように三つ編みやポニーテールに纏めている事を利用した戦術。
 ではあるが、当然のように完全なコントロールが効くわけもないので少ない可能性に賭けるしかなかったわけだ。

《……まぁ、状況はわかんねぇが決着はついたんだろう? だったら何の問題もないだろうが》

 やや不貞腐れたように吐き捨てるディーの言葉に「やれやれ」と再び溜め息を漏らし、

《……そうですね。確かに、決着はつきました》

《だよな! これですずかの勝ち──》

《ええ──、マスターの“負け”です》

 録画分の映像を最後まで確認した後、クアドラはそう、結論した。

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あきゅろす。
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