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魔法少女リリカルなのは
AQUARIUS
第3話……3

 先に動いたのはすずか。1分というアドバンテージがある以上、攻めない手はない。
 身体を深く沈めて一気に間合いを詰め──

 すぐさま右に跳ねる。

 近距離からの高速の横移動。ノエルの目には消えたように映ったはずだ。
 そこへ握った拳を叩き込まれる。
 牽制のジャブだが、その数6発。

 視線すら向けていない相手に避ける術はないはず。だが、

 ぱぱぱぁんッ!!

 ノエルはその攻撃全てをあっさりと止めてきた。

(問題ない、まだまだ想定内だよ)

 くんっ、と身体を反らしそのまま左へ跳ぶ。

(正面からの攻撃はまず避けられる。ならば相手の死角に回り込み、連撃で叩き続ける!)

 すずかの放った薙ぐような下段回し蹴りに下がるノエル。そこへ回転を殺さずそのまま上段回し蹴り。
 しかし、それも首を少し反らすだけでかわされる。

 だがそれでも、すずかの身体は回転と攻撃を止めようとはしない。

 中段。

 下段。

 上段。

 速く。もっと速く。

 中段、下段、下段、上段、中段、上段、上段。

 鋭く、重く、強く。

 中下中中上下上中中下上下中上下下上中下上中。

 廻る。廻る。廻る。

 連続する廻し蹴りは嵐となり、すずかの体捌きも既に目で追える速さでは無くなっていた。

 それでも、ノエルには一撃も届かない。

 そのうちに時計からまたデジタル音。

「開始より1分経過致しました。──参ります」

 言葉と同時。
 ノエルは蹴りの竜巻に迷い無く踏み込み、上段からしなりながら放たれたその足を肩で担ぐように受け止める。

 そしてそのまま自らの足ですずかの残った軸足を薙ぎ払った。

 すぱんっ、と小気味よい音が響き、視界が縦から横に。

「っ!」

 回転したまま空中で横になった身体を、右手を大地に喰い込ませて強引に回転を止める。

 ノエルは既に、視界の外。

 刹那、背後からチリつくような感覚。
 その感覚に任せ、がむしゃらに掌底を繰り出す。自分の放った右の掌底が、ノエルの掌底と正面からぶつかり合いその威力を殺し合う。

 目に映るのは驚いた様子のノエルの顔。
 それも当然だろう。
 数日前のすずかなら間違いなく今の一撃で終わっていた。
 だが、実戦を経た彼女はノエルの想像以上の成長を遂げていたのだ。

(狙うならここだ!)

 相殺し合ったことにより離れた間合いを一足で詰め直し、空中に飛び出したままで右の蹴り。
 着地から流れるようにフック気味の左掌底。

 両方とも止められはしたが構いはしない。
 目的である上下の攻撃でこちらへの目標をずらさせるのには成功している。

 ノエルの体が大きく後ろに下がった。
 威力の大きい攻撃を放つ為の間合いを取りにきたのだ。

(連撃を防御させてスキを作らせる! そしてそのスキに絶対的な一撃を──!)

 左右から次々と繰り出される掌底の連撃。
 その全てがすずかに確かな手応えを与えノエルの体に叩き込まれるが、

「避け──ない!?」

 10発以上の攻撃を受けてもなお、全く揺らぐことない目の前のメイド長が静かに薄い笑みを浮かべ、

「貴女は間違った選択をしています。そのような気の抜けた攻撃などガードの必要もありません」

 そして笑みのまま、固まったすずかに向かって蹴りを飛ばす。

 それは、あまりにも遅い蹴り。ガードは充分間に合った。
 だというのに、

 ゴガッッッ!!

 それごとブチ抜く強烈な一撃は、小柄な体躯を成す術無く吹き飛ばした。

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