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魔法少女リリカルなのは
AQUARIUS
Prologue……2


───駆ける。

夜の闇。ざわめく木々。
吹き抜ける風。

その視界、感覚に映る全てを後ろへ追いやり、ただ眼前を逃げる黒い影を追い、

───駆ける。


どれほど走ったか解らない。
だが、影を追う“蒼”は知っている。
終点は、近い。

闇と木々に覆われていた視界が、突如開けた。
今まで疾駆していた林道を抜け、その先にある臨海公園に出たのだ。

チェックメイト───。

正面は海。
黒い影は逃げ場を失い、その場に立ち尽くす。

「───追いついた」

“蒼”は疲れたそぶりも見せず、歩み寄る。
下がる、影。
夜を照らす街灯が、ふたつのシルエットを静かに映し出す。

黒い影───それはこの世界には存在しえないはずの生物だった。
外見は犬に似ている。だが、それを見て犬だという者はいないだろう。
節くれ立った四肢、異様なほど発達した牙、血のように赤い双眼。
生物の常識を一切無視した醜悪な異形は、魔獣としか表現できない。

そしてもう一方の“蒼”は、光の加減のせいかその表情は窺い知れないが、少女である事が解る。
清涼感のある青をモチーフにしたロングジャケットと、揃いと思われる足首が隠れるほどのロングスカート。腰の後ろに結わえつけられている赤と白───ストライプのリボン。

夜も更け込んだこんな時間にこんな姿で外にいる少女も異常といえば異常だが、それに拍車をかけているのが、右手に握った金属製の長柄の棒だ。

───杖、なのだろう。1m強の長さの柄部分から繋る先端部分は、四枚の流線を描き収束し、それに守られる様に緑青色の八面体の宝石が中央に煌めいていた。

少女はその杖の先を、ゆっくりと魔獣へと向ける。

《Katharsis Mode───》

杖から放たれたのは、凜、と透き通る女性の声。
しかし、それを聞き終わる事なく魔獣は後ろに跳ねた。

背後は海だ。
逃げるにしても身動きの取りにくい水中へ向かうのは自殺行為に近い。

水面が飛沫を上げる。

───そう思われた一瞬、魔獣に変化が起きた。

ずるり、と生々しい音と共に背中から黒い羽───どちらかと言うとコウモリなどを連想させる翼膜だが───それが忽然と生まれ出る。

「まずい!ヤツは空に───!!」

また新たな声が聞こえたが、それを掻き消す様に黒い翼膜が勢いよく水面を打つ。

弾け飛ぶ海面。

それに飛び乗る様に、黒き魔獣は夜の闇に熔けていく。

「───追います!」

《Aerial Drive》

蒼き少女の握る杖が再び声を紡いだ瞬間、少女がふわりと宙に舞い、その身体の廻りにはキラキラと輝く蒼い粒子が吹き上がる。

「ディーさん、掴まって!!」

振り向く少女に、ディーと呼ばれた───青色のスカーフを首に巻いた黒いふさふさした毛玉───まぁ、はっきり言ってしまえば、黒い“ひよこ”なのですが。
そのひよこが羽をパタパタと必死に動かし、少女の頭頂部にぽふりと着地する。

「よ……よし。いつでもいけるぞ」

そんなひよこに小さく笑いかけ、少女もまた夜の闇を切り裂き飛び出した。

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あきゅろす。
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