魔法少女リリカルなのは
AQUARIUS
第2話……7
そこは人で溢れていた。
土曜日、お昼過ぎの繁華街なので当然といえば当然なのだが。
1人と1匹はそんな雑踏の中を、ショーウインドウに背中を預けたまま見つめていた。
『ディーさん、何か反応ありました?』
『いや、今のトコはなんにも。場所変えてみるか』
互いの唇は全く動いていない。
しかし、完全に疎通している意識。
先程ディーから教わったばかりの念話だがちゃんと通じているようだ。
すずかは冷たいガラスの感触から離れ、自らも雑踏の流れへと踏み込んだ。
ちなみに2人がこんな場所にいるのには、ちゃんとした訳がある。
互いに協力を承諾した2人は、
なんにしても、とにかくデモンズブラッドを発見しなければ始まらない
という事で、ディーの“深層魔力感知”を頼りにひとまず片っ端から色んな所に足を運ぶことにしたのだ。
『でも深層魔力感知って、ずいぶん中途半端な能力なんですね』
《所詮希少能力【レアスキル】認定もされてない半端能力ですからね》
『……なんでデバイスのてめぇにまで半端能力扱いされなきゃなんねぇんだよ』
歩みを止めることなく何気なく言ったすずかの言葉に、ヘアバンドに留められたクアドラが答え、ディーはそれに頬を引き吊らせた。
ディーの持つ深層魔力感知能力。
その概要はありとあらゆる魔力を、五感の何かで感じ取る能力の名称を指す。
ただ漠然と魔力という形で受けとるのではなく、個々の魔力を波形など鮮明に魔力構成ごと感知すると言う中々に使えそうな能力なのだが、広域に反応する訳でもなく、魔法構成も解明するには時間が掛かったりとイマイチ使い勝手が悪かったりする。
『とはいえ、今はこれくらいしか出来ないしな』
『そう、ですね』
《やれやれ、です》
人混みの間を抜けるように歩き続けるが、中々当たりは出ないようで。
《マスター、少し休憩なさった方が良いのでは?》
『だな。結構歩き回ったから疲れたろ?』
『そう、ですね。じゃあ少しだけ』
随分歩き回ったせいで既に繁華街を抜け、今は公園の中央まで来ていた。
近くのベンチに腰を降ろす。
まわりでは散歩をしている親子連れや、子供達が駆け回っている。
それを何気なく見ているすずかに、
『そういえば、すずかは何か武術の類でもやってるのか?』
頭の上からディーが問い掛けた。
『わかるんですか?』
『まぁ多少は。どう考えても昨日のは素人の動きって感じはしなかったし』
空を仰ぎ見るディーに、
『武術ってわけじゃないですけど、護身術みたいな感じでノエルに少し習ってはいますけど』
頬を掻きつつ答えたすずかに『なるほどな』と頷くひよこ。
それから少し押し黙ってしまったディーに、すずかは気になっていたひとつの疑問を問い掛けた。
『あの、なんでデモンズブラッドみたいな危険な物が、ご近所に落ちてきたんでしょうか』
それに対するディーからの返事はなかった。
念話がうまく通じなかったのかも、とすずかが再度問い掛けようとした時、
『オレの、せいだ』
『───え?』
ポツリと漏らしたその言葉に、すずかは思わず問い返していた。
『ディーさんの───せい?』
『ああ』
はっきりとした肯定。
どこか遠くを仰ぎ見たまま、ゆっくりと静かにディーは言葉を繋ぐ。
『どうせいつかは聞かれる話だろうからちょうどいい。少し───長い話になるけど、な』
そしてディーは、その日の出来事を思い出すように語り始めた。
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