魔法少女リリカルなのは
AQUARIUS
第1話……6
「はぁ───」
開口一番。少女の口から漏れたのは、深い、深いため息。
原因は言わずもがな、あの黒ひよこである。
静かな規則正しい吐息をたて今もなお眠り続ける彼を、すずかは自分のベッドに横になって見つめる。
(確かに、人間の男の子だったのに)
静かに瞳を閉じ、少年の姿を思い出す。
年は、すずかより少し上くらい。
身長は頭一個分くらい違っていた。
黒い、背中までありそうな長い髪を後ろで縛っていて、瞳も黒くて目付きが少し悪そうな感じだったが、顔立ちは整っていたと思う。
それに黒いジャケットにロングのパンツ、胸と腰部分には金属で出来た───装甲のようなモノ。唯一の色違いである青いネクタイが風になびいていたのが印象的だった。
(は───ぁ)
しかし、考えれば考えるほどわからない。
先程の出来事。
あの時の痛み。
深紅の結晶体。
それに───目の前の男の子。
ヒントが足りなさ過ぎて、答を導き出そうにも
「ぅ───ぐ」
跳ね起きる。
確かに今の声はひよこから聞こえた。
そっと近づいてみると微かにその身を揺らし、小さな瞳がゆっくりと半分だけ開かれた。
「こ……こは……」
「気がついた?ひよこさん」
できるだけ刺激しないよう、すずかは静かに問い掛ける。
小さな、まだ開きっていない瞳と視線が合った。
「君……は、さっき…の?」
「うん。あなたに助けてもらったんだよ」
ひよこはゆっくり、ゆっくり身体を起こして辺りを見渡し、己を見回し、ぽつり、と呟いた。
「そっか……。あの時オレ、許容量【キャパシティ】以上の魔力を無理矢理引き出したから───」
それから初めて、しっかりとすずかを見た。
「君に……助けられたんだな」
その言葉にすずかは慌てて手を振り、
「先に助けられたのは私だし、あなたが苦しんでた時も何も出来なかったから───!」
そんな言葉にひよこは小さな微笑みを浮かべ、
「それでも、礼を言わせてくれ。本当にありが───」
そこまで言って、途端にひよこの笑顔はピシリと凍りついた。
「───?」
どうしたのか、すずかが疑問を投げ掛けようとした瞬間、
「何者だおまえぇぇぇぇぇええっ!?」
ひよこが、飛び跳ねるようにバスケットから後ろに下がる。
「え?え?」
何がなんだかわからないすずかに、バスケットの影に隠れたひよこが声を荒げた。
「ダダダダマされないぞ!助ける前には何の魔力も感じなかったのに、今のお前はなんだ!バカみたいに魔力垂れ流して!!」
話がさっぱり解らず、ただオロオロするすずかなどお構いなしに、ひよこは言葉を放ち続ける。
「今垂れ流してる分だけから感知しても───AAA!?そんな魔導師が何でこんなとこにいるんだよ!!」
ひよこの口撃は止まらない。
「残念だがオレには深層魔力感知っていう、ちと珍しめのスキルがあるんだよ!時空管理局員なめんなー!!」
「ちょ……ちょっと待って!少しは私の話を───」
ギチリ。
二人の、動きが止まる。
互いに見合わせる顔が、先程の異音が聞き間違いでなかった事を確信付けた。
ギチリギチリ。
それは窓の外から聞こえていた。
ギチギチギチギチギチ。
近づいてくる。
すずかとひよこは、窓側からゆっくりと離れ始めた。
ギヂギヂギヂギヂギヂギヂギチギチギヂ!!!
耳障りな音はもう窓のすぐそこまで来ている。
ギヂギヂ───!!
直前で、異音が止まる。
立ち去ったのか、それとも───。
意識が判断を下す前に、壁が爆音と共にぶち抜かれた。
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