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夜の秘密2



「………くん!」


「……らくん!」


「曽良くん!!」


自分を呼ぶ声と体の痛みに意識が覚醒する。


あれ?

僕は一体何をやっていたんだろう……


曽良は記憶を辿る。
そうだ。

確か屋上から落ちて死を覚悟した時に芭蕉までもが飛び降りて地面に叩きつけられたんだ。


咄嗟に体を起こすが鋭い痛みに断念した。

何故自分は生きている?


再び倒れた体に柔らかい感触草の匂い。

すぐに芝生の上で倒れている事に気付いた。
そして自分が生きている事にも。

体の節々は痛いけど確かに生きている。
息もしている感覚もある。

静かに目を開くと芭蕉の涙でぐちゃぐちゃになった顔が視界いっぱい広がる。

何て不快なものを見てしまったんだ。


「芭蕉さん…。何でそんなに泣いてるんですか?」


「だって…。曽良くんが死んじゃったって思っんだもん」


いい年した大人がもんだなんて言うな。
可愛くない。


ぐずぐず泣きながら抱きしめてくるもんだから体が更に痛みをましている気がする。
体を捻って脱出を試みてみてもどこにこんな力があるのかと思うほどの力で抱きしめられているのに気づく。


「芭蕉さん…。痛いです」

その言葉にようやく気付いたのかはっとした表情になって直ぐさま離れてくれた。

「ご、ごめん曽良くん。大丈夫?体痛いの?歩ける?」


眉を下げて情けない顔。
いつもの芭蕉の表情からは想像できない。


「別に大丈夫です。特に痛い所何てありませんし」

弱みを見せるのは嫌だったから平然を装い起き上がる。

「っ……」


失念した。
体は思った以上に痛みを訴えていて体を起こしたのはいいが歩けそうもない。

痛みに顔を歪ませる曽良を見て芭蕉は何かを思いついたように顔を輝かせた。

そのまま屈んで曽良に背中を向ける。

何のつもりだ。


「おんぶしたげる」


「………は?」

自分でも随分と情けない声が出たと思ったがこれは仕方ない。
今何ていったこの人。


中々動かない曽良に痺れを切らしたのか芭蕉は再度強く促す。

それでも曽良は動かなかった。

確かにこのまま歩いて帰るのは至難の技だと思う。
しかし芭蕉だって曽良と同じく屋上から落ちたのだ。いくら曽良が下敷きになって芭蕉への衝撃は和らいだとてあの高さから落ちた事には変わらないし、体を痛めていてもおかしくない。
なのに何故背中を差し出してくるのか曽良には不思議でならなかった。

「芭蕉さんこそ大丈夫何ですか?体とか痛くないんですか?」


別に心配したわけではない。ただ疑問に思っただけだから口にしただけ。


「私は曽良くんみたいに柔じゃないから大丈夫だよ」


にへらと笑うその笑顔からは嘘をついているようには見えない。

ていうか今何て言ったこの老いぼれ爺。

「ほら。曽良くん早く!」


一度言ったら中々折れない真の強い人だから多分今は何を言ってもいたちごっこが続くだけ。

曽良は諦めの溜め息を吐くと渋々芭蕉の背中に乗る。



芭蕉は満足そうに笑うと立ち上がって歩き出す。


以外と足腰がしっかりしている芭蕉に曽良は感嘆の溜め息を吐く。


「へぇ。以外と体力あるんですね」


「曽良くんとは過ごしてきた人生の時間が違うからね」

「何言ってるんですか。どうせ大層な人生は過ごしてないんでしょ」


「ひどい…。いつになく辛辣だよ曽良くん。」


しょぼんと見るからに落ちこんだ芭蕉に苦笑する。

さっきまでのかっこよさは夢だったのかと思うほどにどこへ行ったのか。でも目を閉じるとあの芭蕉の真剣な表情、飛び降りてまで自分を助けてくれた事が鮮明に脳裏を過ぎる。何だか歯痒くてもどかしい。

「ここからだと私の家の方が近いから私の家にいくよ」


「芭蕉さんの家は何か臭いんで嫌です」

「臭くないよ!本当に失礼だな…君は」

「じゃあ玄関から変な臭いがしたら速攻で帰りますんで」


「そんな体で帰れないでしょ。私が手取り足取り看病してあげるから」




「芭蕉さんが言ったら何か卑猥に聞こえるんで死んでください」


「何で死なないといけないの!?嫌だよ。そんな物騒な事言わんといて」


馬鹿みたいな言い合いをしていたらいつもの調子に戻ってくるから不思議だ。
だんだんと眠くなってきたので芭蕉の肩に頭を乗せる。

「芭蕉さん着いたら起こしてくださいね」


「曽良くん寝るの?分かった」


襲ってくる睡魔に逆らわず目を閉じる。一定のリズムで歩く芭蕉の足音が子守唄の様に聞こえてきて気持ちがいい。


遠退いていく意識と直接感じる温もりに曽良は身を預けてそのまま眠りについた。



-end-








文章を纏める力が欲しいと思う今日この頃。



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