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まちぼうけ

初めてだったんだ。
誰かを待つのも、それを悪くないと思う自分も。


    



しっかりしているようであの子は意外と時間にルーズだ。
なにせ一緒に暮らしているのが世界一約束が当てにならないイタリア人(ちなみに、これを僕の独断と偏見と言うならば、僕の周りを思い返して欲しい。きっと納得してもらえるはずだ。)なのだから、仕方ないのかもしれない。
まあ、それだけが原因ではないことくらい百も承知だから、三十分は甘く見逃してあげようと、待ち合わせ場所の見えるカフェに腰を落ち着けた。
「いらっしゃいませ。」
ここ二、三ヶ月ですっかり馴染みになってしまった店主に曖昧な頷きを返して、やわらかな椅子に座った。
「…いつもの。」
「かしこまりました。」
この店は悪くない。
落ち着いた店内の装飾、あの子の好きなショパンのピアノは窓から差し込む光に包まれ優しい空気を作り出す。
よくは分からないが、赤ん坊に金を出させるくらいは美味しいらしいコーヒーと、あれこれ詮索しない寡黙な店主。
哲を思わせるその後ろ姿にくすりと笑い、差し出されたエスプレッソに口を付けた。
ちくたくと小さなリズムを刻む柱時計に目をやって、三十分後の未来を思い描く。
『きょうや、ごめん…骸様が、』
そう言ってあの子は、白い息を吐きながら泣きそうな顔をするに違いない。
ぱら、と捲ったメニューを見れば、あの子の白い指が選ぶだろう(僕なら絶対頼まない)甘い甘いキャラメルマキアートが目に飛込んだ。
「……。」
ハの字になる眉や潤んだ瞳も悪くないが、それよりも、ずっと、
「…ねえ、」
「はい。」
「お願いがあるんだけど、」
呼び止めた店主の唇が僅かに上がる。
「かしこまりました。」
あの子はいつも幸せそうにそれを唇に乗せるから、泣き出す前に甘い甘いカップを小さな手に押し付けてしまおう。
猫舌のあの子に捧げるキャラメル色の湯気が、まだ誰もいない向かいの席に揺れる。
「…あと、五分。」
この甘い湯気が途切れる前に、さあ、まちぼうけの僕のための笑顔をみせておくれ。




暁さん、お誕生日おめでとうございます^^
遅くなってしまい本当にごめんなさい…っ!
いつものごとく、ちっともイチャイチャしてくれないひばどくではありますが、暁さんへの愛だけはふんだんに込めました(笑)
少しでも喜んでいただけたら嬉しいです^^!
では、暁さんにとって良い一年でありますように!

花残月:波




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