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影絵の涙を手探りで拭って
大好きとか、愛してるとか。簡単に言葉にできるような人間じゃないから尚更。態度で示すこともできない自分はいつも君に求めてばかりだったね。

それでも、分かってるって笑ってくれた君には何度も救われていたんだ。





影絵の涙を手探りで拭って





「チカー」
「あー?」

いつも通り。幸村や佐助や慶次達と屋上で弁当広げて、いつも通りの昼休み。

「今日さ、一緒に帰ろうぜ」
「………‥いつも一緒に帰ってんだろ」
「真田とか猿飛とか抜きで!2人で帰ろって言ってんの」
「なになにー?俺達抜きでドコ行こうっていうのー?」
「っせェなどこだっていいだろ」
「相変わらずお熱いねぇ〜…俺様汗かいちゃう」


ダメなんだ、このノリ。政宗は適当に流すけど、俺はそんな器用なことできねぇし。ただでさえ俺達がどんな関係か騒がれるのも嫌なのに。
我が道を行く政宗とは違って、周りの目ばかりが気になる俺はちょっとしたことでも躊躇って。

「…‥っ、2人じゃなきゃダメなのかよ…」

素っ気なく返してしまうけど本当は分かってる。今日は俺達が付き合い始めて丁度一年になる記念日だ。去年の今頃、中庭で告られたんだっけ。
政宗がなにか用意しないわけがないし、俺だって忘れてるわけじゃない。だけどさ、今言わなきゃならないことか?普通に今日の帰り家こいよじゃダメだったのか?


「…なら聞くが逆になんで2人は無理なんだ?」
「いや別に…無理なわけじゃ…」
「だったらいいだろたまには」
「っ、でも、」
「でも、なに?」
「ちょっと政宗そのくらいに‥」
「黙ってろ。てめェらには関係ない」
「…でもほら、!みんなで帰ったほうが賑やかで楽しいじゃねぇか、なぁ?」
「黙ってろっつったろ!俺は元親に聞いてんだ」

政宗の機嫌がみるみる悪くなっていく。そんな不機嫌オーラに当てられて、なんだか俺まで腹が立ってきた。
政宗の気持ちも分からないでもないが、そこまでムキになることだろうか。


「…‥んだよ、…じゃあ、2人じゃなきゃいけねぇ理由ってなに?」


溜息と苛立ち混じりに言った、その会話が最後。もういいとだけ告げた政宗は、蹴るように扉を開けて屋上を後にした。

「チカ…」
「チカちゃん…」
「元親殿…」
「…ん、なんか‥ごめんな」

気まずい雰囲気が流れて、その日の昼飯はなんとなく不味かった。





「なぁー、次の移動教室第2だっけ?」
「あ、ちょっと辞書借りる」
「おい待て!置いてくなし!」

午後から、正確にはその昼休みの出来事から一変、政宗は俺と目も合わせなくなって。大して仲良くもなかったクラスメート達と楽しそうに談笑している。幸村と佐助は隣のクラスだから慶次が一緒にいてはくれたけど、…俺ちゃんと笑えてるのかな。
政宗は政宗で俺への当てつけなのか、クラスの中でも比較的小柄で可愛らしい男子の頭を撫でて可愛いだのなんだの言ってるし。遠くてよくは聞こえないけど、口の動き方だとそんなニュアンス。

だから、さ。俺じゃなくてもそんな優しい顔できるんじゃん?それともさっさと吹っ切って次のターゲット見つけたってわけ?あ、でもアイツも俺もゲイじゃないし、じゃあやっぱり俺への当てつけか。


「…チカ‥、大丈夫か?」
「あー…、うん。ちょっと眠ぃだけ。保健室行って仮眠取るから担任には適当に具合悪いって言っといて」
「分かった。…無責任な言い方しかできないけど、無理すんなよ?」
「ありがと」

有難いことに保健室は無人の空間だったから、静かに、静かに少しだけ泣いた。
結局午後の授業はすべて欠席という不真面目振りを発揮してしまったが、そんなもの今更なので気にしないことにする。考えても考えても、今現在俺の頭の中の一体何割を占めているであろう政宗のことしか出てこない。

俺が全部悪かったんだろうか。俺が、全部。





「チカちゃん、帰れる…?」
「大丈夫でござりまするか?」
「一応、鞄とか持ってきたけど‥」

真っ赤な夕日が差す放課後、遠慮がちに開かれた扉からいつも連んでる3人が顔を出した。やっぱり悩みの種はいなくて。

「悪ィ…マジで寝不足だったみてぇで、今起きたばっかだからもうちょい休んでから帰るわ、ありがとな」
「そっか、じゃあまた明日ね?」
「…お気をつけて」
「……………」

慶次だけは俺の嘘、気づいてたみたいだけど。
ごめんな、今は一人がいいんだ。


フラフラと歩いた先は屋上。くたびれたフェンスから見下ろした校庭から慶次達の背中が見えた。
ホント今日はアイツらに迷惑しかかけてねぇな。明日ちゃんと謝らないと。

「…ごめん、か」
「なにが?」
「っ、??!!」

ずっと校庭を見てたから、まさかすぐ真後ろで人の声がするなんて思わなくて大袈裟なくらい肩が跳ねる。
振り返ればまさに今日1日の憂鬱の原因が、すました顔して俺を見ていた。

「真田達帰ったけど、いいのかよ?」
「…ちょっと忘れ物しただけだ」
「屋上に?」
「も‥どうでもいいだろ!ほっとけよ俺なんか…っ!!」
「俺なんか、なに?」

また質問責め。今日何回目だ。


「お、れなんか…可愛くもねぇし、素直でも、ねぇし‥」
「顔上げろよ、ちゃんと俺の目ェ見て言え」

あ、ヤバい泣きそう。ばかばかカッコ悪ぃから止まれよ畜生鼻の奥痛ぇしクソったれ。

「…、お前も、俺なんかより、小柄で華奢な‥可愛らしいヤツがいいんじゃん?」

ダメだ、政宗の顔見たら涙止まんない。久し振りにこんな号泣したし涙腺壊れたんじゃねぇの、どうでもいいもう知らねぇ。


「お、れっ‥!負担にしか、なんね‥し。別れる、なら、‥れでい、けど!」
「……………………」

「俺は!いつだっ、て、必死だ、た!…一生懸命、好きだった、し‥っ、俺、なりに、お前っ、こと、愛してた…!!」

もうなに言ってるかも分かんないし涙が邪魔して政宗の顔なんて見えやしない。なのに止まることを知らない雫は重力のままに俺の頬を濡らして、俺といえば鼻水だけは垂らさないようにってそればかりに意識を集中させてた。


「………‥もういい」
「っ、」
「よく分かった」

細く骨張った指が視界をクリアにすれば見たこともないような優しい瞳と出会って。俺のお喋りな口が次になにか紡ぐ前に、政宗の薄くて少しカサついてるソレが塞いで不安や哀しみなんて全部飲み込んでしまった。
ぬるり、呆気なく侵入してきた熱い舌は逃げることなど許してくれない。フェンスと政宗の間で身動きの取れない俺は、ただただ体の芯をジンジンと痺れさせるだけ。抵抗の余地など毛頭ない。

「ま…さ、ね‥」
「…悪かった」
「…?」
「ガキみてぇな怒り方して悪かったよ」
「や、…お前、は‥悪くねぇよ」


だから、ごめん。俺もごめん。

また泣きそうになったら困ったように笑われた。


「なぁ、…さっきのアレ、訂正してくんね?」
「アレって、なに」
「好き“だった”、愛して“た”ってやつ。…なにナチュラルに過去形使ってんだよ傷つくだろ」
「誰が」
「俺が」
「ぷ、…」
「あーいいよ、笑ってもいいから訂正しろ。ここには俺らしかいねぇんだから、…もう拒む理由なんてねぇよな?」

大丈夫。もう言える。
たまには素直になろうぜ、俺。


「政宗、…好き。大好き。…愛してる」


今度は俺からキスしてやった。



「…そういやなんで2人で帰るとか言ったんだよ?そのまま政宗んちか俺んち行けば良かったじゃねぇか」
「Ah〜…帰りっつか、お前に告った中庭でコレ、渡したかった」
「……………え゛、コレってつまりその…」
「まぁ、…そういうことだ。…給料3ヶ月分とまでは言えねぇけど…、バイト掛け持ちしたから結構本気」


最近放課後付き合い悪ィと思ったらなんてモン買ってんだよ俺なにも用意してねぇんだけど。

「ごめ、…非常に言いにくいんだけど俺なにも買ってな…!!あ、いやちゃんと覚えてはいたんだぜ?!」
「あぁ、それなら心配すんな」



その指輪つけたお前がプレゼントってコトで。










左手薬指の確かな重みに、見えない痛みはすっかり消えた





(明日からまた、隣り合って笑顔だね)
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学パロのダテチカで喧嘩から甘々、とリクエストいただきました。最近幸せ設定の母ちゃん元親しか書いてなかったので王道のダテチカがなんだかぎこちなさすぎる。無駄に長いですが中村は喧嘩した後ゲロ甘にするのが好きです。

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