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カタルシス
朝起きたら、なんだか体が怠かった。

寝起きだからだろって大して気にもしてなかったら、昼過ぎたあたりから大熱出してました。



「あ゛あぁ〜…、ヤッベェ。超熱ある」

39度とか久々に見た。
ガキの頃はしょっちゅう体調崩してたけど、今じゃバカはナントカって言われるくらい風邪引いたことなかったのに。

「薬…、あったっけ…‥」

立ち上がろうにも体が鉛のように重くて動けない。
実家住まいなら親がなんとかしてくれるかもしれないが、今は遠く離れた地で一人暮らしだ。

「…マジ絶望的…」

寝たら治ると思ってたけど、こうも熱が高いと寝苦しくていけない。
部屋中フラフラになりながらやっと探し出した風邪薬は、使用期限が5年も過ぎていてさすがに飲む気にはなれなかった。


「も、となり…、電話しよ…」

ボヤける視界で幼馴染の番号を呼び出す。
明るすぎる液晶画面に目が痛んだ。

(本当は政宗にきてほしいけど…、断られるだろうな)

政宗は昔から自分にも他人にも厳しいヤツだった。
少し風邪を引こうものなら移すなとかなんとか言いながら近寄ることすら許されない。それは俺達が恋仲になっても相変わらずで、以前と比べると多少丸くなったにしても看病なんかしちゃくれないんだろう。

「いーですよーだ、慣れてるし。政宗にデレとか別に求めてないし」

基本的に淡白なんだ、政宗は。会いたいと言って会いにきてくれるような性格なんかじゃない。
だからこんな時に頼りになるのが幼馴染だ。同じ大学で住んでるアパートも近くて、ホント良かったと思う。


『……‥なにか用か』
「よー、今家?」
『なんだその酷い声は』
「熱出して動けねぇから助けて。風邪薬とか買ってきて」
『何故我に頼むのだ。恋人というものがありながら嫌味か貴様』
「政宗が看病しにわざわざくるわけねぇじゃん。自業自得だって言われんのがオチだろ。…‥なぁ、頼む」
『はぁ……‥、分かった』
「俺リンゴ食いてぇ」
『分かったから大人しく寝ておれ馬鹿者!』


返事をする前に切られた。
少々冷たい時もあるけどそれが元就だから。なんだかんだで最終的には優しいし。

安心したら若干の眠気が襲ってきた。
しんどいけど、ちょっと寝ていよう。










「…ん、…」

額にヒヤリと冷たい物が触れて目が覚める。
長いこと寝ていたのだろうか、体中が汗でぐっしょりしていて気持ち悪い。

「…も、と‥なり…?」

額に置かれたソレが離れる前にギュッと握った。
急な動作に驚いたのか握った手が硬直するのが分かる。

(あ、れ…?)

都合の良い夢、だろうか。
俺が知っている元就の手は、もっと華奢で小さい。

風邪に浮ついた脳でもしっかりと理解できた、この掌は。


「政、宗…‥」


やはり夢でも見ているのだと、再び目を閉じた俺にデコピンを繰り出す先程の手。…こんなことをするのは夢でも現実でも政宗しかいねぇ。

「…な、んで…」
「それは俺が聞きたい」
「…は、?」
「なんでナリさんなの?」
「…え?え、なに。なんで元就に連絡取ったの知ってんだよ」
「だってナリさんとこいましたし。借りてた本返しに行ったら偶々、なぁ?誰かさんが死にそうな声で電話してきて、…恋人というものがありながら、?」

あの絶対零度に睨まれる俺の身にもなってみろ、なんてさも当たり前のようにベッドの脇に薬を置いて、温かい卵粥まで作ってくれて。
いつもならチクチクした小言を言ってくるクセに、こういう時だけホント、狡いと思う。


「だってお前、病気したらいっつも移るから近寄るなとか移したら許さねぇとか言って煙たがるじゃん」
「それはそれ、これはこれ。弱ってる時に頼られないとか恋人としてショックだぞ、さすがに」

そうさせたのは紛れもなくお前だけどな。
俺だってもっとお前に頼ったり背中預けたりしたいけどな。

「…それに。お前になら移されてもいいと思ってるよ、今は」
「政宗…」
「俺が看病するとかチカ限定だし!超レアなんだから、しっかり甘えとけよ?」
「はは、うっぜ」
「うるせぇよ!…あー、でもまぁ…薬飲まないことにはなんともなぁ。…飯は?食える?」
「…あんまり…」
「んじゃ先着替えるか。汗スゲェだろ」

手際良く着替えの部屋着を出してきて、お湯で濡らしたタオルで体を拭いてくれるところも。
部屋の間取、必要な物がどこにあるか。まるで自分の家のように把握しているそのひとつひとつにどうしようもなく愛情を感じてしまう。


「…政宗」
「んー?」
「…り、がと…」
「なに?」

「…ありがと、な」


俺、お前と付き合ってて良かったと思ってるよ。
理不尽な理由でしょっちゅう喧嘩して、そのたびにその後ろ頭を殴り飛ばしてやろうと何度思ったか知れない。

無駄な言い合いでお互い意地になるのに離れることには耐えられなくて。
原因も思い出せないまま翌日にはまた2人でバカやってる、それが俺達だから。


「…なんだよ、らしくねぇの」
「いいんだよ、お前が俺の看病してることのほうがらしくねぇし」
「だから!チカは特別なんだって!いいから大人しく着替えろよ犯すぞ」
「あはは!分かった、着替える」

これからもこうやって、グダグダと乳繰り合っていけたらいい。


「…俺も、」
「…?」
「俺も、ありがとな」
「は?なんで?」

「他人にこんなにも優しくなれるんだって、お前じゃなきゃ気づけなかった」

「他人っていうか、俺贔屓なだけじゃん」
「お前さー、俺前より丸くなったって巷じゃ結構な評判よ?」
「…体型がじゃなくて?」
「ひっでぇ!まだスリムだし!お前が一番良く知ってんだろ!」


ほらな、お前となら不思議と食欲も湧いてくる。
こんな中身もないような会話で思い切り笑えるの、政宗だからだよ。

作ってあった卵粥も粗方平らげて、買ってきてくれた薬も無事に飲むことができた。
長く起きていたからか、そのまま倒れるように横になるとすぐに襲ってくる睡魔。


「…ま、さむ、ね‥」
「…ん?」
「俺が、起きるまで…」



側に、いて。



伝わったか、伝わらなかったか。狭間で揺蕩った意識でははっきりと確認はできなかったけど。

「…OK,honey…‥ゆっくり休みな」


フェードアウト前に見えた恋人は確かに、慈愛に満ちた優しい表情をしていた。










体温を分けた1LDK





(君の苦しみも全部、僕に頂戴)
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いっぺんデータがフッ飛んでしまったので悔しくも2番煎じです申し訳ない。

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あきゅろす。
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