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ライバルは保護者でした
元親は、困っていた。



「政宗様ー!お留守ですか、政宗様ー!」



合鍵を使って無遠慮に侵入してきた人物に、どう対処すればよいか分からなかった。
頼みの政宗は、元親に朝食のホットケーキを焼いてそそくさとシャワーを浴びに行ってしまったから。
生クリームのたっぷり乗ったホットケーキにいざ齧りつこうと大きく口を開けた手前、いきなりの来訪は予期せぬ事態だった。


「……む?!」
「っ!!」

(どうしようどうしよう怖い人がいるよ政宗助けてよもとちか食べられちゃうよ…!!)

「…なんだ…?…人、形?」
「っ、っ!」

強面のオジサンは恐る恐るといった感じに元親を突いてみたり持ち上げてみたり。
初めて目にする物体に興味を示すことは人間として自然の摂理だろうが、当の元親としては堪ったものじゃない。

声を出さないようにするのが精一杯。
大好きなホットケーキが冷めても生クリームが溶けても、そんなことは気にしていられなかった。



「あ゛あぁぁぁ!!!!小十郎テメェ!元親になにしやがる!」
「は?…もとちか?」
「お前が手に握ってるソイツだよおおぉぉぉぉ」

まさに鬼の形相で自分の手から『モトチカ』を奪い返す政宗の様子に、どこで教育を誤ったかと疑わずにはいられない。
まさか、こんな。たかが人形にここまで必死になるとは。


「ま、ま、まっ、まさむねっ!」
「お、おうチカ!災難だったな、コイツの顔怖ェだろ〜」
「………人形が…、喋った……」

それどころか、まるで生きているように自然な動きをしている。小十郎にはイマイチ、元親が生物であると確信できないでいた。
あまりにも小さい。掌サイズだ。産まれたての幼児と比較するにしても、その大きさはどちらかと言えばハムスターのほうが近い。


「…まずは政宗様、…この状況を説明していただいてもよろしいか?」
「Ahー…そうだな、小十郎は元親と会うのは初めてだもんな」

事細かく今までの経緯を説明する政宗の話を一字一句洩らさぬようにと聞き入る小十郎の表情は真剣そのもの。
それが元親に更なる緊張を与えているのだとは気づかないまま。

「成程…。そのガチャガチャの中にこの坊やが入っていたと。…俄かには信じ難いが生き物であることに変わりはないようです」

驚かせてしまって申し訳ないと、軽く頭を下げた相手に、元親は少し警戒心を解いた。
パッと見ヤ○ザにしか見えないが、その口調やオーラはどこか優しいものもある。



「…で?お前はなんの用で俺ンちまできたんだよ?」
「来月の輝宗様との会合予定とお目通しいただきたい資料、それから今日は近所のスーパーが特売日でしたので目ぼしい食材を買い揃えて参りました」
「お前は親父の秘書なの?俺の世話係なの?」
「どちらもです」
「あぁ、そう…」

手際良く食材を仕舞っていく様子をじーっと見つめてみる。元親の視線に気づいたのか、小十郎は薄く笑ってホットケーキの皿を持ち上げた。

「…焼きたてだったのに冷めてしまったな。すまない、作り直そう」
「ぇ、ぁ、だ、い‥じょぶ…」

大丈夫、食べられると言いたかった言葉は尻すぼみになってしまって、残念ながら小十郎には届かなかったようだ。
ほどなくして焼き上がったホットケーキには生クリームと合わせてラズベリーソースまでかかっていて、明らかにグレードアップした朝食に目を輝かせるしかなかったのだけれども。


「おいしい!」
「そうか、それは良かった」
「こじゅ!ありがとう!」
「礼には及ばねぇさ」
「…………‥小十郎……」
「はい?」

「……テメェ、元親誑かしたらどうなるか分かってんだろうな…?」


こじゅこじゅと嬉しそうにハシャぐ元親はそれはもう天使の領域であるが今のこの空気は非常に面白くない。

(俺完全にボッチなんだけど!!チカが俺を見ねぇんだけど!!)

佐助や元就や他のメンバーにもよく懐いているとは思うが、ここまでではないだろう。

(クリスマスやバレンタインは俺がいないと泣いて大変だったっつーのになんだこの空気感!)


彼女を取られた彼氏の気分だろうか。
それとも娘を嫁に出す父親の気分か。

幼い頃は自分も小十郎を随分と慕っていた。それは今も変わらずであると自覚もしている。
しかし、それとこれとはまた話が別なのだ。





「こじゅ、もう帰っちゃうの?」
「あぁ、あまり長居しても政宗様にご迷惑だからな」
「もとちかだいじょぶだよー、こじゅ、まだ遊ぼうよー」
「はは、また今度な」

駄々をこねる元親のかわし方までなんとスマートなことか。
言い知れぬ敗北感に「マジ小十郎早く帰れ」と願わずにはいられなかった政宗であった。










そりゃないぜマイハニー!





(純粋な瞳で次の訪問を俺に聞かないで!)
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政宗様が空気な件。

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