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プレストに駆ける
(どうしようどうしようどうしよう…!!!!)



元親く、いや‥元親、が。
練習試合、見にきてます。





「…ガッチガチでござるな」
「うううるっせぇよ緊張してるだけだっつーの黙って精神統一でもしてろ!」
「政宗殿が一番落ち着いておられぬのでは」

ヤベーってマジ控えってこんな緊張したっけ。てか、え、俺そんな落ち着きねぇのっつーか主将そんな怖い顔でこっち見ないで!


「………政宗…‥」
「は、い…」
「…1分時間やる。とりあえず落ち着いてくれ」
「……………」
「…長曾我部殿と話してこられては?」
「バッカ…!元親が見てるから緊張してんのに本人のとこ行ってどうすんだよ!余計手汗出んだろ!!」
「だから!話せば少しは慣れるかもしれないだろうと言ったのだ!全国大会目前の貴重な練習試合なのだぞ、主将の顔に泥を塗るおつもりか!!」
「ごめんなさい即行で行って帰ってきます」

…おっかねぇ〜。今の真田見た?超おっかなかったってなにあの顔、般若?阿修羅的な?
なんでもいいけど元親がワクワクというかドキドキというか多分あーコレ期待の眼差し極まりねぇって顔でコッチ見てんだけどどうですかね、俺には天使に見えるんですがどうですかねコレ。


「?政宗?どうした、忘れ物か?」
「Ahー…、忘れ物‥。…うん、そう。忘れ物」
「荷物玄関だろ?取ってきてやるよ!」
「いやーそのなんつーか忘れ物っつーかえぇと‥、あのな、元親」
「………?なに?」



「…いって、きます…」



………なに言ってんだよ俺のバカー!
落ち着けって言われて余計にパニクって挙句口実のハズの忘れ物が「いってきます」ってドコのキザ野郎だよもう消えたいいっそ消えてしまいたい。


「………ぇ、と‥」
「…………じゃあ、そういうことで…っ??!!」

困惑してますって顔した元親を見てらんなくてそそくさと引き返す、それよりも先に。
元親が、俺の手を取った。


「…俺も、さ」
「…?」
「朝チビ共を幼稚園バスに乗せる時に言うんだ…、いってらっしゃい。って…」
「っ、」
「そしたらさ、弟らも俺にいってらっしゃいって言うからさ。…俺、今日も1日頑張るぞって気になれるんだ」
「…元親‥」

「だから、いってらっしゃい!俺、ココでちゃんと見てるから!」


いってきますとか、いってらっしゃいとか。
ただいまとか、おかえりなさいとか。

そんな、毎日当たり前のように交わす何気ない一言が、今の俺には十分すぎるほどに精神安定剤で。
気づけばいつものように、いや、それ以上に集中している俺がいた。





「…おぉ‥、なにお前急に男前になって帰ってきたな…」
「すんませんっした」
「…人騒がせにも程があるでござる…」
「だから悪かったっつってんだろ」
「帰りに駅前のみたらし」
「わぁーったよ買えばいいんだろ買えば」


この練習試合は、全国大会前の最終調整として組まれた、ほぼ俺のための時間だ。
いつもなら大将の主将が今日は副将で、俺が大将をやる。
力試しにと選抜された1年坊はやっぱり惨敗で、幸村と主将とで取り返してやっと同点。俺が勝敗のすべてを決める戦いとなった。

「政宗、あまり気負いするな。お前の力試しと、感覚の最終調整のための練習試合だ。相手校もいつもは手合せできないような強豪だからな」
「主将……俺、全国行くんスよ?全国っスよ?ここで負けたら、手ぶらで帰ってくるのと同じことっス」
「…政宗‥」
「それに…」


ふと上げた目線の先。
大袈裟なくらいに手を振って応援してくれる君がいる。


「元親が、見てますから」
「あぁ…例の武道オタク君か…」
「俺の剣道はまるで舞ってるみたいだってどうやら買い被ってるらしいんで、期待に応えてやんないといけないんです」


軽く目を瞑って、浅く深呼吸。
いつだったか、主将が俺の強味はその集中力だとか言っていた。
どんな状況に立っていても的確に判断し、寸分の狂いもなく動けるように、相手からは絶対に目を逸らさない。周りの歓声も足音も聞こえない。

この時元親がどんな顔で俺を見てたかなんて知らないまま。
聞こえるのは、審判の声だけ。



「…一本!勝者、伊達政宗!」



「…勝った、」
「おぁーホントに勝ったな!俺さすがに今回はヤベーと思ったぞ、相手の大将は次の全国大会でも優勝候補だからな!」
「見直したでござる政宗殿!やはりその集中力は素晴らしいですな!」

中々体験できないような良い臨場感だった。
…てか、全国大会ってこんなんがずっと続くのかよ無理じゃね?俺じゃちょっと役不足じゃね?



終わりにちょろっと反省会やってこの日は解散になって。夕日で染まる体育会館は静まり返っている。

「…あ、政宗殿」
「…?っ、も‥とち、か…。まだ帰ってなかったのかよ」

夕日を背に伸びる影の先には、今はもう見慣れた人物が立っていた。俯いているからか、その表情は読み取れないけど。

「…どうした?」
「政宗!」
「っっっ、???!!!」

気分でも悪いのかって近づいたら急に抱き着いてきやがるしなにこのドッキリ。鼻の下伸びてるとこ激写とか止めてくださいよ訴えますよPTAとかに。

「もももも元親とりあえず離れろ、いい子だから!」
「すっっごかった!めっちゃカッコよかったし!試合中の政宗、武道っていうかもう芸術だった!感動した!」
「あ、ありが、とう…?」
「あ、そうだ!俺言おうと思って待ってたんだ、政宗!」
「…?なに?」


「おかえり!」



例えば。ここぞという時に使う願掛けだったり呪(まじな)いだったり。
それが俺にとってはお前の何気ない一言だったりする時。
その一言を頼りにまたここへ帰ってこれるなら。

どんな敵も恐くはないと、そう思った。










世界の一番星を君にあげよう





(そして言うんだ、“ただいま”って)
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普段ヘタレな子がここぞという時に真剣な顔をした時。どうしようもないトキメキを覚える私です。

遅くなってすみませんでした…!!

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あきゅろす。
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