全力少年
「あ゛あ゛ああぁぁぁ〜〜〜〜」
「「………………」」
「…政宗殿…、チカ殿が引っ越されてからというもの、ずっとあの調子でござる…」
「まったく…見苦しいことこの上ないな」
「だめ、むり、死ぬ。チカがいねぇと死んじゃう」
朝のおはようも、一緒に帰る帰り道も。
元親がいたから楽しかったのに、今は全然楽しくもなんともない。
真田と帰ったってナリさんと話したってなにかが足りない。メールもしてる。手紙も書いてる。たまに電話だってするけど、やっぱり足りない。
「…そんなに寂しいなら会いに行けば?お小遣いでも貯めて」
「………どんだけかかると思ってんだよ…。校区外にもほどがあんだろバカかお前…」
「年上に向かってバカとか言わない。…てか伊達ちゃん‥突っ張ってるわりには校区外とか気にしてるんだ」
「マジうぜぇーサルのクセにぃー」
チカが見たら絶対笑うだろうな。なに言ってんだよって、困ったように笑う顔だってすごくすごく大好きなのに。
やたらと制限が多い子供社会の中では、元親に頻繁に会いに行くことは難しい。大人になれば、距離やお金なんて問題も一気に飛び越えて会いに行けるのに。
なぁ、チカは寂しくねぇのかな?
佐助や、真田やナリさんに会えなくても。
俺が、いなくても。
「…なぁ、チカ…」
『うん?』
「……………いや、…。そっちの学校、さ。……楽しいか?ちゃんと慣れた?」
『おー、だいぶな。すげーんだぜ、こっちのガッコ。そっちよりも都会だから校区内に余裕でゲーセンとかあんの!』
「…そっか…、‥すげーな」
聞けなかった。俺がいなくて寂しいか、なんて。そんな元気そうな声を聞いたら特に。
いつもそうだ、どれだけ俺が好きだって言ってもチカは笑って流すだけで、応えてくれたことなんか一度もない。
それでもいいと思ってた。卒業したら俺が中学に上がるまで待ってろ、とか。その先もずっと、一生隣を陣取るつもりだったから。
でも、さ。…そんな遠くに行かれたんじゃ、…隣になんていれないじゃん。
俺はチカがいねぇと干乾びて死にそうなのに、チカは俺がいなくても平気な顔。
いつか、チカの中から俺の存在も消えていくのかなって、考えたら悲しくなった。
『…お、そういやさ』
「…?」
『今週の土日にそっちの爺ちゃんちに遊びに行くんだ!久し振りだし、遊ぼーぜ!』
「……‥ぇ、」
『あ、…もしかして用事あった…?』
「いや、ない!つか、あっても遊ぶに決まってんだろ!!」
『あはは、なんだそれ!んじゃ、爺ちゃんち着いたらまたメールするなー』
「おう!」
ありがとう神様!
さっきまでかなりブルーだったけど今のでめっちゃ元気になりました!
やべーやべー!佐助とかに言ったら絶対会いたがるだろうから黙ってよ!どうせまたすぐあっちに帰るんだし、貴重な時間は二人きりですごしたい!
待ち遠しくて、待ち遠しくて。
勉強とかめちゃくちゃ頑張ってたら日にちが経つのなんてあっという間だった。
「…よし、…‥カンペキ…」
ジジイかってくらい早起きして、オカンの不審な目線も華麗にスルーして、前日ベッドの横に用意しておいたお気に入りの服を着る。
飯食って、歯もいつもより念入りに磨いて、ちょっとだけオヤジの香水を拝借したら閃いたようにオカンが「なんだ、デートか」って言うもんだから「そうだ」って言っといた。
「今度うちに連れてきなよ」
「エンキョリレンアイだからムリ!」
っていうか、オカンもよく知ってる元親だけどな!
チカからメールがくるまでそわそわそわそわしてて、なんも出ねぇのにやたら便所とか行ったりして。チカ専用の着信音が鳴った途端、待ってましたと言わんばかりに家を飛び出した。
チカの爺ちゃんちは俺んちからもそんなに遠くなくて、何回か一緒に遊びに行ったこともあるから道はよく知ってる。
今日までの沈んだ気分がウソみたいに軽やかだ。いっそスキップでもしたくなるくらいにはテンションが上がってて、こっちへ歩いてくる銀髪を見つけた瞬間、俺はいてもたってもいられなくなって全速力で駆け出した。
「ち、か、っ!」
「っぅお?!早っ!なに、お前走ってきたの?」
「チカ、チカ…!ホントに元親だ…!!」
カッコ悪いな。ちょっと大人ぶってオシャレしてみても、チカの姿を見ると今まで溜め込んできたモノが一気に溢れてくる。
「………政宗…‥」
「うるせぇ俺は泣いてねぇ」
「…まだなにも言ってないし」
「んだよ寂しかったんだよクソ悪いかバカ死ねボケカスアホ」
「…今思いつく限りの悪口全部言ったなお前」
「……………………」
「いやー、そっか。そうだよな、政宗は俺のこと大好きだもんな」
「…愛してるんだし」
「…うん、俺も」
「………………?…ん?」
(ん?ん?ん?今の“俺も”はなにに対する“俺も”?)
「……‥俺だって寂しかったよ。…電話じゃ元気なフリしてたけど、ホントはすっげ寂しかった」
「ち、か‥」
「いつも朝一で俺ンとこきておはよって言ってさ、帰りも教室の前でずっと待ってるお前がいなくてさ…。なんつーか…、上手く言えねぇけど、…会いたくなった」
「………………」
おんなじ、キモチ。
おんなじだけ寂しくて。
おんなじだけ会いたくて。
おんなじだけもどかしい時間を、おんなじだけすごしてた。
「爺ちゃんちに行きたいって言い出したのも俺なんだ」
「…え、」
「そしたらお前、会いにきてくれるかもしんねぇだろ?」
「‥かもじゃなくて会いに行くけど」
「はは、…うん。そうだった」
俺の大好きな顔で笑って、思い切り抱き着かれる。
マジやべぇって可愛すぎて鼻血出そうになったけどなんとか堪えた。だけど、抱き返した腕が震えてしまった。俺、ダッセぇの。
前よりもちょっと背が伸びてて、俺が知ってたチカとは少し違う匂いがする。
大人になったって、言うのかな。俺みたいに背伸びした感じじゃなくて、本当の意味で大人になってる。
「…‥俺さ」
「…ん?」
「元親の隣…絶対取り戻しに行くから」
「……政、宗」
「置いていくなよ」
俺が今言える精一杯の本気の一言。
少しだけ驚いたような顔をした元親に、恐る恐る近づいて。
ドラマの真似事みたくくっつけた唇は、俺をほんのちょっと大人にしてくれた気がした。
夏の終わり、溶けた陽炎
(少年達の夏は終わらない)
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なんでもいいが外だぞ、少年(^q^)
たまにはオカンと仲良しな宗様もいいなと思いました。
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