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幸せの定義
「……旅行?」
「あぁ、会社の知り合いの親が実家でデカい牧場やってるらしくてよ。チビがいるなら楽しいんじゃねぇかって」
「確かに最近遊びに連れてってやったりできてねぇもんなー」
「そんなに遠くないし、日帰りって感じでも大丈夫だと思うんだけど」
「いいんじゃね?牛とか馬とかコイツら近くで見たことないし」

「なになにー」
「ろこいくのー」
「みんなでお出掛けしようかって」
「えー!いくー!」
「早起きできるかー?」
「れーきーゆー!!」
「丁度今週末に連休あるし、ちょっと行ってみるか」
「久し振りだなー。牧場とか昔に親父とお袋に連れてってもらったきりだぜ」
「俺もガキの頃以来だ」


その知り合いの親の牧場っつーのも結構な規模らしく、ネットで検索したらすぐに専用ページのリンクが出てきた。

「やっぱ牧場のアイスは食わなきゃだよな!」
「あー分かるソレ」
「ままーねんねしるー」
「ぼんもー」
「なにお前ら今日早いのな」
「まだお出掛けは明日じゃねぇぞ?」
「いーのー!」
「はみまちしてー」
「はいはい、じゃあ口開けて」

相当楽しみなんだろうチビ共は、プチ旅行の話を持ちかけた途端お利口になって、普段は嫌がる歯磨きも進んでやってくれる。素直な子供は好きだぜ。
今週末は天気も崩れないってお天気お姉さんが言ってたし。夏の終わりといえどまだまだ昼間は暑いから気をつけないとな。










「おーい、そろそろ仕度できたかー?」
「んー、あと千翁が便所済ませたらオッケー」
「まぁまぁーちっこでーたぁー」
「はーいはいちょっと待ってー」
「車のエンジンかけてくるから、先下りてるぞ」
「おー、頼んだ」

毎度毎度マイペースな千翁は今も朝飯のサンドイッチを食いながら便所でトイレを済ませてる。行儀悪いって止めさせなきゃなんねぇんだろうけど、いつもやってるワケじゃないしあんま厳しく躾けるのも可哀相だしなーとか思ったり。
トイレトレーニングにって買った子供用の便座には取っ手の部分に某アンパンのキャラクターがくっついていて、千翁は上手にトイレができたら必ずコイツに報告するんだ。

「あんぱんま、ちっこでたよー」
「ハイよくできました。ほら、早くしないと父ちゃんに置いて行かれるぞ」
「、!はやく、はやく、」
「早く早く!千翁急げ、ズボン履いて!」
「まま、とじまぃは?」
「風呂の窓OK、ベランダOK、寝室OK、トイレの窓OK、ガスの元栓OK、玄関OK!あとは隊長がズボン履けば完璧です!」
「んふふ〜、よくれきまちた!」

急いでるつもりの本人はその場で地団駄踏んでるようにしか見えないけど、なんとかこちらも準備を済ませて駐車場まで下りる。

「荷物トランクに入れたけど大丈夫だったか?」
「あぁ、コイツらの飲み物とかはこっちに入ってるから大丈夫」
「かーちゃいまからろこいくのー」
「んー?牧場」
「そぇなにー?」
「牛さんとかお馬さんとかいるんだよ」
「どーぶちゅえん?」
「んー動物園ともちょっと違うなぁ…。母ちゃんより父ちゃんのほうがよく知ってるぞ」
「おい、俺に振るなよ」


純粋な質問攻めに合いながらも目的地に到着。
地元じゃわりと有名なだけあるな、やっぱり広い。

「お、あそこで牛の乳搾りできるんじゃね?」
「ソレ俺の得意分野だろ。チカでいつもやってるし」
「ちょっと黙れお前」
「ぱぱー、もぉもぉがいるー」
「なにちてんのー?」
「アレ絞るとな、牛乳が出てくるんだぞ」
「えー!」
「ぼんもやるー!」
「うん、やらせてやるから。順番な」
「もぉもぉ…はっぱたべてゅ…」
「牛さんは葉っぱがご飯なんだよ」
「ちおはこめたべゆよー」
「そうだな、千翁は米が好きだよな」

乳搾りの順番が回ってきて、梵と俺が一緒になってやらせてもらった。これ結構コツがいるんだよなー。

「梵、一気に握ったら牛さん痛いだけだぞ。こうやってな、人差し指から順番に…」
「あ!でた!」

しゅげぇー!なんて大きい瞳を一杯に見開いて尊敬の眼差しを向けられる。
千翁はなにが面白いのか政宗と一緒に牧草食ってる牛をずっと観察してた。


それからもずっと向こうまで続く緑の上をのんびり歩きながら、寄ってきたヤギや羊を触ってみたり。千翁が羊のモコモコ具合に親近感を抱いてみたり。
コロコロ変わる表情はいつまで見ていても飽きない。

「いいなー、こののんびりしてる感じ」
「最近忙しくてあんまゆっくりできなかったもんな」

少しずつ増えていく、家族の思い出。
次はどこに行こうとか、前はどこに行ったとか。
笑顔を数えては幸せになって、また笑顔になれる。



「やっぱシメは牧場アイス!」
「バニラのみの直球勝負なのがいいんだよな、味誤魔化してませんって感じで」
「え、でもシュークリームとかプリンとか色々ある…迷うし」
「ちお、ぷぃんがいー!」
「お前は聞かなくても分かる。なにを差し置いてもプリンだから」
「梵は?なにが食いたい?」
「ぼんねぇー、こぇがいー」
「エクレアか。中々洒落てんのな」
「んじゃ俺らはソフトクリームで」
「だな、絶対美味いよ」

手作りなのも手伝って本当に美味しかったデザートは、一通り買ってお持ち帰りすることにした。
甘いモン苦手な政宗も珍しく完食してたしな。


「時期ごとにやってるイベントも色々なんだな、羊の毛刈りとか見てみたいんだけど」
「そしたらまたその頃こようぜ」
「梵も千翁も楽しかったか?」
「「うん!」」
「じゃあどっかで晩飯食って帰るか」
「お前ら食いたいモンとかある?」
「おむらいしゅー」
「ふあふあのやちゅー」
「オムライスなら確か専門店あるよな」
「ナビさん大活躍っすね」



楽しそうに笑う、子供達の顔。
幸せそうに微笑んだ政宗を見て、俺は少し泣きそうになってしまった。










幸せは乗算する





(4人揃えば何倍になる?)
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ザ・不完全燃焼

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あきゅろす。
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