ないもの強請りのaffection 「おーい、政宗ぇー…」 「…なに隠れてんだよ」 …つか、隠れきれてねぇし。 デカい図体をこれでもかってくらいに縮めて、教室のドア付近から遠慮がちに俺を呼ぶ友人。 もとい、片想いの相手。 「お前を友と見込んで頼みがあるんだ!」 「はぁ?」 「一生のお願い!!」 「…なんだよ、改まって」 今更そんな前振りが必要な仲でもないだろうに。 俺がお前からの頼みを断れないのを知ってか知らずか。 どうせその頼みもアイツが関係してるんだろって、薄々勘づいてていても口には出せずに笑って誤魔化すしかなくて。 きっと、俺はお前になら何回一生のお願いをされたって全部叶えてしまうと思うんだ。 「……‥料理?」 「…うん。上手いだろ、政宗」 「まぁ、好きだけど。なんでまた急に料理なんか」 「元就がさ、…最近夏バテ気味で元気ねぇんだ。スタミナがつくような飯でも作ってやりてぇんだけど…俺、料理とかしたことないし」 俯きがちに若干頬を染めて、ここにはいないアイツの話をする時。コイツは自分がどんな顔をしているか分かっているのだろうか。そしてその表情をどれだけ俺が欲しがっているか、お前分かってんの? 「…スタミナ、ねぇ…」 鰻でも食わせときゃいいだろ。市販のモンなら焼いてタレかけりゃできる。 そんなことを言っても聞かないし納得しないだろうなってことも分かってる。本音はそう返してやりたいのに、つくづく俺はアンタに弱い。 「…豚の生姜焼きでも作ったらどうだ?調理も簡単だし、豚肉のビタミンは夏バテに効くし。生姜は食欲の促進にもなるしな」 「じゃあ、それにする!」 次の休みに俺の家にくるって勝手に予定まで立てられて。 こうしてなにかといえば俺んちに押しかけてきて迷惑じゃないなんて言いきれないのに、やっぱり俺は嫌な顔ひとつできやしない。 「…調味料は貸してやるけど、必要な食材は自分で買ってこいよ」 「当たり前だろ!」 そこまで図々しくねぇよ!ってプリプリしてるけど。お前、今でも十分図々しいと思うよ。…少なくとも俺に対しては。 「必要な食材書き出しといてやるから。ちゃんとソレ買ってからこいよな」 「おぉ、サンキュ!やっぱ頼りになるのは政宗だよなぁ〜」 そうやって上手に俺を持ち上げて、アンタは俺を縛りつける。 報われないって分かってても逃げられなくて。忘れたくても、アンタの笑顔がいつも邪魔をする。 「ちはー、政宗ー」 「おー、開いてるから入っていいぜ」 「うぁー、外めっちゃ暑かったー」 お邪魔します、と。律儀に挨拶して、靴もキレイに揃える。こういうとこは妙にきっちりしてるよな。 「今日は夜まで親いねぇし、そんなかしこまらなくてもいいけど」 「いやぁ…いつもの遊びに行く感じと違うからさ…」 「…‥まぁな、なにが好きで野郎と二人寂しく料理なんか…」 「悪かったな!」 「……はぁ。作ったらすぐ渡しに行くんだろ、さっさと済ませようぜ」 「お、おぉ!」 いざ作り始めたはいいが、料理の「り」の字も知らないコイツに飯の作り方を教えるのは少々骨が折れる。 すべてを事細かに説明してやらなきゃならねぇし、キャベツの千切りも、飯の炊き方すら知らねぇなんて…。今まで調理実習とかどうしてたんだ。 「俺がやると滅茶苦茶になるからって、いっつも食器洗う係だった」 「あぁ…、そう…‥」 それでもアンタはこうやって、アイツのために頑張ろうとしてるんだよな。 「…俺の気も知らないで」 「ん?なんか言ったか?」 「いや?なんも」 いつまで俺は、この気持ちを抱えたまま生きていかなきゃならない? 奪う自信も、想い続ける覚悟も中途半端なクセに、アンタが俺に笑いかけるたびに胸が苦しくなる。全部ブッ壊して、ここに閉じ込めておきたくなる。 「…俺、さ…‥」 「ん?」 「……元就が、好きだよ」 「………………」 「…キモいって、笑うか?それとも軽蔑する?」 「………どっちでもねぇな」 「…政宗…‥」 「応援してやる‥とまではいかないにせよ、その気持ちをバカにできるほど立派な人間でもないんでね」 「………………」 「自分の納得いくようにやったらいいんじゃねぇの?」 そんでもってできる限り、俺を巻き込まないでほしい。もうこれ以上、アンタの口からアイツの名前は聞きたくない。 「…ありがと、な」 「…別に」 「…‥分かってるんだ、…そんな目で見てるのは俺だけだって」 「……………」 「…アイツは、‥元就は、なにがあっても俺を恋愛対象として見ることはねぇ。幼馴染なんだ、考えてることは大体分かる」 「…元親‥」 「もし、俺がアイツにこの想いを伝えてしまえば。軽蔑されて俺から離れていっちまうのは目に見えてるからさ」 「……………」 「…だけど、どうしようもねぇんだ。…ごめん、政宗に言っても困らせるだけなのにな」 苦しかったら泣けばいい。俺にだけは、弱いところを見せていいから。そう言えたらお前も少しは救われたのか。 だけど、口を開けば思ってもないことを言ってしまいそうで。俺は黙って聞いているしかなかった。 「飯はあんま盛りすぎんなよ、肉入らなくなるぞ」 「…こんくらいか?」 「そんなモンだろ。その上にキャベツを薄く引いて、水気はしっかり取っておけよ」 「…と、この上に肉?直で乗せて大丈夫か?」 「お前…。生姜焼き弁当好きだってよく買ってんだろ。肉と飯は別々に盛ってあるか?」 「…あ。そういえば」 なんとか形になった弁当を見て満足気に笑う顔。 今だけは俺のモンって思っても罰は当たらねぇかな。 「…今度さ‥」 「んー?」 「…俺にも飯、作ってよ」 「はは!うっぜぇー」 「ウザい言うな」 うん、この距離感が丁度良いのかもしれない。 そうでもしないと友達の振りなんてきっとできねぇから。 付かず離れず。決して交わることもない平行線。 無難な位置に留まっておきたい俺は、高まる気持ちとは裏腹に随分と臆病な人間だった。 彼の人の背を追いかける (追いつく術も知らないで) -------------------- そしてナリさんが一度も登場しなくてすみません。 [*前へ][次へ#] |