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君という名の心臓
「今日は多分早く帰れると思うから」
「分かった、飯は帰って食うんだろ?」
「おぉ、そのつもり」
「気をつけてな」
「いってきます!」


いつもの会話。1日の始まり。





君という名の心臓





この家に転がり込んでどのくらいになるのか。1日中家の中にいて、それこそ元親がいなければ外出もできなくなっちまったような俺にはどうも曜日感覚は必要ないらしい。元親の休みも不定期で、忙しい時期は10連勤とか当たり前にあったりするから余計に。

元々、俺と元親は田舎に住む幼馴染だった。ぶっちゃけその頃から俺は元親に想いを寄せていたんだが。
いつだって元親が最優先で、元親のために俺が存在していたようなものだった。だからアイツが卒業して俺に黙って上京なんかしやがった時には死ぬかと思った。いやむしろ死んでやろうかとも思ったくらい。
夜にかければ大体出てくれた電話も、翌日の夜には返ってきてたメールも段々疎らになっていって、終いには音信不通状態だ。生きた心地がしなかった。
だから泣きついてでも連れて行ってもらおうと思ったんだ。ロクに飯も食えてない傷だらけの体でだって、アンタに縋りつくことくらいはできたから。

この家に住むようになってから俺の生活もガラリと変わった。まさか主夫紛いなことするようになるとは思ってもみなかったけど。
元親は昔から交友関係の広いヤツだったから、社会人になってからも周りに人がたくさんいた。いや、学生の頃に比べたら格段に増えている。
それでも離れた土地にいるよりはってなんとか今日まで頑張ってこれたんだ、何度か意識飛びそうになったこともあるにはあるけど。


「今日の晩飯なににしよう…」


今日は早いかもって言ってたしな。少し早めに飯と風呂の用意しておかないと。
ついでにベッドメイキングも抜かりなくやっておこう、最近ご無沙汰だからな。





午後8時前。早い時間だとこのくらいには帰ってくるからもうそろそろか。
特に記念日でもないのにムダに張り切って晩飯を作ってしまった。ツッコまれたらスルーしよう。


そうやって、今か今かと待っていたのに。
20時を回った現在も、元親は一向に帰ってくる気配がなかった。


もしかして事故にでも遭ったんだろうか。急いで帰っててトラックと正面衝突、とか。メールも返事なし。電話だって虚しい呼び出し音が続くだけで目的の声とは繋がらない。畜生アイツ本当に首輪でも着けて監禁してやろうか、俺がどんな気分で待ってるかも知らないで。
秒針が進むごとに不安と焦りが募っていく。まさか、俺を見捨ててまたどこか遠くへ行ったんだろうか。重たい俺に、耐え切れなくて。


「ぐ…っ、」

ぐらり、ブレる視界と宙に浮くようなこの感覚には覚えがあった。久し振りだ、長らく発症しなかったのに、酸素が上手く脳まで回ってくれない。
望んでなくても勝手に涙が溢れてくるし、目の前が真っ赤に染まっていく。手足の先からビリビリとした痺れが走って目が回る。鼓膜の近くで耳鳴りが響いて脳ミソが割れそうに痛いのがダイレクトに伝わってくるんだ。息ができない。苦しい。痛い。助けて。

「も、…‥っ‥!!」
「ただいまぁ〜…‥あ?!政宗??!!」


フェードアウトしていく意識が途切れる瞬間で、待ち望んでいた姿を見た気がした。
いや、気のせいなんかじゃないな、口移しで酸素送り込んでくるヤツなんて一人しかいない。

「っ、っ…、っは、‥は、」
「大丈夫か?!」
「は、…はぁ、‥だ、じょうぶなように、見えるか‥?」
「見えねぇ。ごめん、俺のせいだよな。帰りが遅くなっちまったから」
「分かって、なら…遅れて、帰って‥なよ、」


まだ涙は止まらない。申し訳なさそうに俯いた元親が俺の涙を拭って、未だ力の入らない体を抱き起してくれた。カッコ悪いけど、しばらくは全身痺れて動けないのだから仕方ない。

「今日さ、そういやお前がうちに住み始めて丁度一年じゃんって、思ってさ」
「あ…、?」
「なんか買って帰ってやろうって。…でもいざ買うとなるとなにがいいのか分かんなくてよぅ」

迷っていたらこんな時間になったのだと。事故だなんだって心配していた俺がバカみたいだ。


「んなモン…なにもいらねぇんだよ」
「…政宗」
「早く帰ってきてくれりゃ、それでよかった」
「…………‥」
「アンタがいなきゃ息もできねんだ、元親が一番よく分かってんだろ…?」
「…そうだったよな、ごめん」


やっとの思いで握り返した手は震えていた。元親も怖かったんだな、俺が死んじゃいそうで。

「…‥大騒ぎしたら腹減ったな」
「…誰のせいだよ、誰の」
「だからごめんって!今日のところはコレで許せよ」

俺に覆いかぶさってキスしてきやがった、いつもは自分からなんてしてこないクセに。もったいないから目開けてたら顔真っ赤にしてやがるし。可愛すぎんだろ、頭押さえつけて舌入れちまった。

「…っおま!元気じゃねぇかよ!!」
「No,アンタのお陰で死にそうだった」
「良かったじゃん、生きるって有難いモンだろ?」
「…お前今晩ホント覚悟してろよ…」


いつもの政宗に戻ったって。そんな無邪気に喜ばれたらこれ以上怒れなくなってしまう。
頼んでもねぇのにプレゼントだと銘打って買ってきたデジタルカレンダーを、これまた頼んでもねぇのに玄関に飾ってご機嫌だけど。

「半永久電池だってよ!」
「だからどうしたよ」



また来年お祝いしようなって。

そんなだから俺はいつまで経ってもアンタから離れられなくなってしまうんだよ。










ずっといつまでも、君と同じ鼓動を刻んでいたいと思った





(さぁ、ちょっと遅めの晩飯にしようか)
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心臓。の続編か政宗視点のお話、とリクエストいただきましたので政宗視点の続編書いてみました。ヤンデレ楽しいぜヤンデレ。一応以上で企画部屋コンプリートです…!!長らくお待たせしてすみませんでした!

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