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騙し騙され、勝つのはどっち?
「うん!今日も完璧!」
「お美しゅうございますぞ元親殿!!」
「頑張んなチカ!応援してる!」

「…‥テメェら…帰ったら覚悟しとけよ…」


どうやら俺は、今からデートに行かなければならないようです。





騙し騙され、勝つのはどっち?





事の発端は俺が賭けで勝ったあの日、保存していたイケメンからのメールをコイツらに見せてから始まった。
今更後悔しても遅い。一人1万なんて大金に釣られたのも事実だ。


『この人と会う約束をして、それでもバレなかったらもう1万ずつ』


バレなかったらって、よく考えなくてもこんなゴツい女いるほうがおかしい。レスリング部とか言ったら信じてくれっかなぁ…でも趣味は買い物とか映画鑑賞とかバリバリ女の子で通してたしなぁ。

今日もバッチリ佐助にメイク決めてもらって、くるくるロングなウィッグも被って。睫毛もプラチナだから黒く塗らなきゃとか言ってっけどどうせまたつけま何個か付けんだろうがよ。髪が茶色の時点でかなりの違和感なのに、首元に纏わりつく人工毛が鬱陶しい。
全体的に淡い色の服なんて用意された時にはサブイボも出ますよそりゃ。ムダにふわふわしてっしスカートとかスースーする。それ以上デカくならないようにってヒールの靴を履かされなかっただけまだマシなのか。



「……………………」

待ち合わせに選んだのは比較的需要の高い駅前。ジロジロ見られてる気がして妙に周りが気になる。

『チカちゃん腕組みしてメンチ切らないの!両手でカバン持っておしとやかに待ってなさい!!』

「……なんだっつーんだよ…」

遠くで監視してるらしい佐助達からメールでいちいち指示を出されるのがウザくて堪らないがここは金のために我慢だ。
言われた通り両手でカバンを遊ばせながら極力俯いて待っていれば、トントンと控え目に肩を叩かれた。


「チカさん、ですよね?」
「あ…ハイ‥」

振り向けばやり取りをしていた相手が立っていて。写真で見るより断然美形な顔が真横にあったからちょっとキョドってしまった。
平均以上の身長の俺と比べても5センチそこいらの差だからチビってわけでもないんだろう。ブーツ履いてるから正確なサイズは分かりかねるが。

「思ったよりも背が高いんですね」
「ぁ‥ごめんなさい」
「謝ることじゃないですよ。写真で見るより断然可愛い」
「そんな、ことないです…」

可愛いなんて言われて喜ぶ野郎なんてソッチの人間くらいだろうが俺は今女の子になりきっているので照れておく。普段言われる茶化したような「可愛い」じゃないのに嫌悪感を抱かないのはこの人の外見のせいなのかオーラなのか声なのか。
メールしてても思ってたけど、やっぱり完璧な人間だこの人。お洒落が好きだと言っていた通りシンプルすぎず派手すぎず、かと言って流行に流されていない自分流の着こなしっていうんだろうか、とにかく凄い。


「…どこに行くんですか?」
「映画、好きって言ってましたよね」

観たい映画があるんです、着いてきてくれますか?なんて。そんな紳士的に振る舞われたら女じゃなくても頷いてしまうんじゃないだろうか。
例外なく俺もあっさり了解してしまったけども、今は佐助に散々言われたガニ股が直っているかどうかが心配。声のトーンは大丈夫かな、極力高い声では喋っているけど、時々裏返りそうになるから気をつけないと。
また今度は慶次から『若干ガニ股!!!!』ってメールが入ってて慌てて直した、ら政宗さんにやんわりと手を取られた。

「お友達ですか?」
「え、あ、はい」
「…メールもいいですけど俺といる時は俺だけ見ててくれません…?」
「は、はい、すみません!」
「俺のほうこそすみません、こんなヤキモチ紛いなこと言って」
「いえそんな‥大丈夫ですよ」

寂しそうに笑うからなにも言えなくなる。
友達や今までの彼女がこんなこと言ってきたら即萎えてたけど、政宗さんって不思議だ。


「…政宗さんって」
「はい?」
「不思議な方ですね」
「え、どこがですか?」
「なんだ、なんか…完璧そうなのにちょっと可愛いところもあるというか、」
「…俺としてはチカさんのほうが不思議な方だと思いますけどね」
「え?」
「なんでもないです。行きましょう」


この時の意味深な笑みの意味を俺はまだ知らない。
なにも知らないから普通でいられたんだ。

政宗さんといる時間は純粋に楽しかった。いつもの俺が友達になれたら間違いなく趣味とか価値観が合ったと思う。好きなアクセの話とか聞いてると特に。
映画観てから軽く飯食って、買い物なんかもした。政宗さんが女性用のショップにも入ろうとしたからそこは先日買い物したばかりだとか適当なこと言って全力で止めたよ。絶対着ないしそれ以前に俺が着れるサイズとかあんのか。この服だって一番デカいサイズでもスカート短くて苦労してんのに。



「…結構暗くなってきましたね‥あ、時間大丈夫ですか?門限とかあります?」
「あ、大丈夫です。一人暮らしなので」
「そっか、大学生でしたよね。じゃあどっか美味いレストランでも行ってディナーにしましょうか」

車用意してあるんでって高そうな車に乗せられて。さすがに車で移動となると佐助達も追ってはこられないだろう。『今から家まで送ってもらうから今回の賭けも俺の勝ちな』なんてメールを3人に一斉送信して一人ほくそ笑む。
政宗さんにもこれまでの経緯を話して謝罪したら今日はもう帰ろう。あー良い仕事した。


「着きましたよ」
「う、わ…」

いかにも高級そうなレストランだ。でもなんか違和感。

「ココ、俺が経営してる店の系列なんです。チカさんを連れてこようと思って、今日は貸切り状態にしていたんですよ」

そう、客が一人もいない。シェフやウェイターも一人ずつ配置されてる程度で、レストランというよりはドラマなんかでよく見る大きな屋敷にいるような感覚。
事前に行く時間を指示していたのか、席に座ったらすぐに美味そうな料理が次々と出てきた。美味い、確かに美味いけど、ここまで良くしてくれる政宗さんには騙してるって罪悪感しか生まれねぇよ。


「…どうしたんですか、浮かない顔して」
「え、」
「口に合いませんでしたか?」
「いや、とっても美味しいんですけど…、あの、………‥ごめんなさい!!!!」
「ん?」

「俺、男なんです!大学の連中に罰ゲームっつか、賭けやらされてて…」
「…………………」
「始めは出会い系に登録してこの顔で何人からメールくるかって賭けてたんスけど、段々エスカレートして会ってもバレなきゃ上乗せで金賭けるって言われて…!!」
「…‥それで俺が標的になったってわけですか」
「ホントすみません!!」

ヅラ取って謝罪してるとか俺、超滑稽なんだけど。顔を上げれば政宗さんは無表情。これは賠償請求をされるパターンなんじゃないかもしかして。今日の儲けも軽く超えて大赤字なんじゃないか俺の財布。

「つまりチカさんは俺の心を弄んでたってことですね?」
「や、そんなつもりじゃないです!今日は純粋に楽しかったし…‥だからこその罪悪感といいますか、」
「でも俺を騙してたのは事実だ」
「………‥、」


ここは責任取って、大人しく俺のものになってくださいね。


「………………は、?」
「返事はハイかイエスでお願いします」
「ちょ、待って…俺の話聞いてました?」
「メールしてた時は女だと思ってましたよ。でもさすがに…‥この身長と体型で女だって言うほうが無理じゃないですか?」
「え?」
「会った瞬間でバレバレでしたよ、面白かったからここまで連れてきちゃいましたけど」

ニコッと笑う顔は無邪気極まりないのだが、言ってることが俺にはイマイチ理解できていない。俺のものになれってつまりどういうことだ?


「…政宗さんってソッチの人?」
「どっちの人ですか。つか敬語めんどくせぇ」
「…一気にガサツだな」
「性別詐欺ってたお前に言われたくないね」
「ごめんなさい」
「まぁいいけど、楽しかったし。アンタ名前は?」
「は?」
「チカって偽名なんだろ?本当の名前なんだよ」
「元親」
「…あながち偽名でもなかったんだな」
「なぁ‥俺のものになれってどういう意味?」
「そのまんまの意味だけど」
「バイなのか?」
「そりゃねぇな、元親だからじゃねぇの?」
「っ??!!」

「心配しなくても逃がしゃしねぇよ」



俺ももうアンタから逃げられるとは思ってませんけどね。いつだったかなにかの授業で教授が「社長クラスの人間には変わった輩が多い」とか言ってたけど、アレ本当だったんだな。










どうやら俺は社長夫人とやらになるそうです





(他人事ならば高らかに笑い飛ばせただろうに)
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出会いましょうの続編、とリクエストいただきました。ありきたりでしかも長くてすみません。何回か書いたけど、やっぱ敬語好きだなぁ。

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