ホッチキス×紙(特殊)
無機物擬人化
カチ、カチ、カチ。
規則的な音がする。
来週の会議資料を1部ずつにまとめるているのが、さっきからあそこでカチカチやってるホッチキス様なんだけども。
(…カッコいい…)
外見も纏うオーラもスマートで、表情一つ変えずにひたすら己の針を差し込んでいる姿はまさに『カリスマ』。
彫刻のような整ったあの顔に見つめられたら灰になれる自信がある。
「針、どんな感じ?」
もうすでに分厚い会議資料にされてしまったコピー用紙に、期待半分不安半分な面持ちで聞いてみた。
半ばウットリしている気がするのは気のせいじゃないんだろう。
「やっべぇよ、超イイ」
「どんな風に?」
「なんか、初めてが政宗で良かったっつーか」
「…政宗?」
「アレ、元親知らないんだっけ?ホッチキスの政宗」
「チカは中表紙用の色紙(いろがみ)だからコピー用じゃないもんな、政宗と顔合わせるのは初めてか」
「…政宗っていうのか…‥」
そんなにイイものなら是非に体験したいものだが、先に言われたように自分は中表紙に使われる色紙。コピーはおろかホッチキスで纏められることなど皆無に等しい。
けれどもカチカチと鳴る音にハモるようにして啼くコピー用紙の声が耳に入れば、ますます興味は膨らむばかりで。
「元親もコピー紙なら良かったのにな」
他人事を良いことに、会議資料になったヤツらは鼻歌混じりにそう呟いた。
政宗はといえば、長時間にわたる仕事で肩が凝ったのか首をグルグルと解していて。
そんな様子まで絵になるな、なんて。見惚れたところで話すことすらできないのに。
「なぁ、アンタ」
「………………」
「アンタだよそこの色紙」
「…は!俺、ですか?!」
「そう、アンタ。さっきから随分ガンたれてくれてっけど。なに、喧嘩売ってんの?」
「や、違います!そんなつもりじゃ…目つき悪いのは生まれつきっつーか…」
「そうじゃなかったにしてもちょっと見すぎだろ。俺になんか用?」
あまりの熱視線でさすがに気づかれてしまったらしい。
ゆっくりと近づいてくる政宗に、恥ずかしくなってつい俯いてしまう。全身の熱がすべて顔に集まってきたようだ。(だって声までカッコいいなんて!)
「すみません…別に用とかじゃないんですけど、」
「じゃあなんで?」
(…コピー用紙が羨ましくなったなんて言えねぇ…仮にも俺のほうが価格上なのに…)
「…まあ、言いたくねぇなら別にいいけど」
「…すみません…」
「謝んな。…それよりアンタ、外注品か?」
「ぇ、あぁ、そうです。これから丁合とムセン加工があるみたいで」
「名前は?」
「は、?製品の、ですか?」
「違ぇよ、アンタの。それと慣れてねぇんならそのガチガチな敬語止めろ」
黙ってりゃ紳士みたいなイメージなのに口を開くと随分俺様なホッチキスだ。
明らかに小馬鹿にされているのに不愉快じゃないのは、彼の柄に合っているからか、それとも俺がMなだけか。…前者であると思いたいけれど。
「…元親…」
「そうか、俺ぁ政宗だ」
名前なんか聞いてどうする。
どうせもうすぐでお別れなのに。
「せっかくの外注でウキウキなとこ申し訳ないけどよ、…‥アンタのソレ、印刷ミス?」
「へ…?…………っ、??!!」
どこでどう間違えたのか俺だけダブって2度刷りされたらしい体には、汚く重なった文字が並んでいた。
これじゃあ製品にはなれない。ミンチにされてリサイクル行きとか、なんて残念な俺の人生。
「…最悪だ…誰だよ印刷のオペレーター…」
「別にいいんじゃね?予備紙もあるんだしよ」
「俺は古紙になんのもミンチにされんのも嫌なんだよ!製品にもなれねぇって、会議資料以下…‥」
「会議資料?…さっきのヤツらになにか言われたのか?」
「政宗の針超気持ちんだぜ〜お前もコピー紙なら良かったのにな〜って鼻で笑われた」
「アイツらこそ会議終わったらミンチなのにな」
「はぁ…、大人しくゴミ箱にでも入ってるか」
「あ、待って」
ひらり、ゴミ箱へバンジーしかけた体は逞しい腕によって引き戻されて。
驚きで見開いた瞳には政宗の顔が映っていて。
「ゴミになるくらいなら俺の側にいろよ」
前振りもなく急に言われたものだから回転の鈍った頭では意図することがまったく掴めなくて。
「なに、…なんで…?」
「つまるところ、一目惚れしましたってコト」
「…誰に」
「元親に」
「嘘だろ。笑えねぇよ」
「嘘じゃねぇよ。興味ないヤツに俺から話しかけたりしねぇ」
こういう時だけ名前呼びってズルい。
「なぁ、…アンタが他のヤツらと溶けて混ざって生まれ変わるなんて考えたくねぇんだ」
「まさ、」
「俺だけの物って印つけて穴だらけにしたい」
耳元で囁かれる、甘い低音に思わず身震いしてしまう。
肩口に当てられた針の先がジンジンと痺れた。
カチ。
「っん…!」
至近距離で聞こえた針の刺さる音。
不意打ちのソレに、身構えていなかった俺は盛大に声を洩らしてしまった。気紛れに這い回る掌が愛しい。
「イイ声だ…」
「…、ぁっ‥!!」
「もっと聞かせろ。…他人には言えねぇとこまで穴あきにしてやるからよ」
「も…、好きにして…っ!!」
それは需要のない子づくりに似ている
(挿されては抜かれる感覚におかしくなりそう)
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過去最大級にやっちまった。楽しかった。
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