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不器用だから、愛なんです(戦国)
「チカ」
「………………」
「チーカー」
「………………」

「………………」



だんまりだ、さっきからずーっと。

前触れもなく屋敷の門を叩いたかと思えば、通い慣れたであろう俺の部屋まで一直線。
小十郎の静止の声も聞かず俺の目の前にドッカリと腰を下ろして、それから後は冒頭の通り。

そもそも遠征遥々奥州までなにをしにきたのか、その理由すら不明であるのだから、尚更黙ってないでなにかしら話してほしいのだけれど。


未だ続く、沈黙。
遠くで蝉が鳴いている。


「…‥まぁ、別にいいけどよ」

自分とて暇ではない。
溜まりに溜まった政務を片づけなくてはならないし、経済的に可能ならば新しい武器も一式揃えておきたい。あー…、刀の手入れもしなきゃな…。

やるべきことが多すぎて軽く眩暈を覚えた。



「……なんてこたァねぇよ」
「Ah?」
「明日には敵かもしれねぇ、下手すりゃ生きてすらいないかも」
「チカ?」
「祝い酒なんて、やれねぇけど、」


なにも、なにもないけれど。

ただ、傍にいたかった。
お前という存在がこの世に生を受けた日を、共に過ごしたかったのだ。


「…………元親、」
「……用もねぇのに、押しかけて悪かったな」
「チカ、大丈夫だ。よく分かった」


なぜ、単身で乗り込んできたのか。
なぜ、背を向けたまま黙りこくっていたのか。
なぜ、自分よりも幾分体格の良いコイツが、こんなにも小さく見えるのか。


「なにもいらねぇよ。アンタが考えてること全部分かっちまったからな」
「…………………」
「でも…折角birthday祝いにきてくれたんならよ、…ソッチばっか見てねぇで俺にも顔見せろ」

言えば素直に向き直る体。
これが本当に、あの長曾我部元親だろうか。

毎夜毎夜金をバラ蒔いては寄りつく女共を片っ端から抱いて寝る。俺の聞く長曾我部元親とは、こういう男であった。
恋をすれば女は変わると言うが、それは男も同じことではなかろうか。


「確かに、不明瞭な明日に期待できるほど今の日の本は平和じゃねぇがな。…だからこそ、人は天下を取りたがるんだろ」

いずれ来るであろう平和のために。
今を生きて、また来世で逢えればいい。


「アンタがいるということ、それが俺の未来だ」



その屈託のない笑顔があることを望んだ未来を、俺は死んでも忘れない。










時を越えた物語





(廻り廻って平成の世、隣には君がいて)
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サイトトップに飾っていた言葉たちをタイトルに変えて。季節感総無視な誕生日ネタ。

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あきゅろす。
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