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甘い指先(特殊)
王様が亡くなった。後を追うように王妃様も。
そんな噂が広まったのは、メレンゲの雲がのんびりと流れるある晴れた日。



王様と王妃様の間に子はなかった。
後継者問題に国中が大騒ぎ。

「私には地位も名誉もある、時期国王は是非私に」
「私は前国王の側近だったのだ!この国と国王に一番尽くしていたのは私だ!私が国王になるべきだ!」

口々と王家の門を叩く人々に召使いも困り果てた頃、1人の召使いが王様の寝室から遺書を見つけてきた。
遺書にはこう書かれてあった。


『国中の者を集めて盛大なるお菓子のパレードを』


そして、こうも書いてあった。

『召使いの選んだ一番美しい2名を、時期国王とその妃とする』

広場にて公聴された内容に、人々は我よ我よと目色を変えた。





「パレードかぁ…」

流れるメレンゲの雲みたく、綺麗な綺麗な白銀の髪をした青年は呟いた。
彼には身寄りがなく、金などあるはずもなかった。

「どいつもこいつも血眼になりやがって…仕事ほっぽりだしてまで国王になりてぇのかよ」

右を見ても左を見ても、道端の草も家も車も、すべてがお菓子のこの国は、食べ物にこそ困らないが如何せん甘ったるい。
どちらかといえば肉食派な青年は、この手の甘味が少しだけ苦手であった。
お菓子の国と言うだけあって菓子の類はすべて拾い食いで賄えるのに、肉や魚、野菜といった輸入品は篦棒に高い。
国王になればそんな輸入品も腹一杯食えるのだろうと、私欲に翻弄されそうになる。


(…!!俺のバカ!ちゃんと仕事しろ!)


主張し出した腹の音は無視して、修理を頼まれていたひび割れ部分の壁をチョコレートで補強する。

(…内心は俺だってパレードに行きたいさ…)

リズミカルな音楽、煌びやかな衣装、楽しそうな笑顔。段々と近づいてくる列に目移りしながらも、黙々と作業を進めた。



「…もしもし、」
「………………」
「…もしもし!」
「うわぁ!…お、俺ですか?」
「貴方以外に誰がいるんですか?」

不意に声をかけられて振り向けば、黒い燕尾服を着たスラリと長身の、右目の隠れた美形が立っていた。
思わず見惚れていれば苦笑する、その顔まで絵になる人。

「…なにかご用でしょうか?」
「パレードには行かれないのですか?」

もう始まっていますよ、と言う男に、コイツもかとうんざりする。

「…生憎俺には着て行く服も、服を買う金も暇もないんで」
「金がなくても、立派な衣装はできますよ」

冷たくあしらったつもりなのに、男はニコニコと笑いながらボロボロの作業着を脱がせてくる。
唖然としていた青年も、素肌を撫でる風に一瞬で顔が青ざめた。

「ちょ、!なにしてんだお前!変態!」
「あまり暴れないでくださいね…、と」

男の力は並大抵のものではなく、どんなに抵抗しようにも面白いほど上手くかわされてしまう。
とうとう下着姿にされた青年は泣きたくなった。

「H'm…あのテラスにあるテーブルクロスを拝借しよう」
「は…ぁ、?」

男は青年が修理を頼まれていた家の庭に立っているテーブルから、薄いラベンダー色のテーブルクロスを引き抜いて青年に巻きつける。
カラフルな飴ピンで繕っていけば、あっという間にドレスに変わった。

「淡い紫色がよく映えますね、…色白な絹肌は得ですよ」
「ちょ、アンタなにする…っ」

少しだけ静かに、と耳元で響く男の声はほろ苦いビターチョコレートのよう。
意味もなく火照る青年の頬を優しく撫でて男は再びドレスを繕い始める。

際には甘い綿菓子のファーをあしらって。
足元を彩るように散らばった砂糖菓子の花は、まるで本当に花畑に立っているような気にさせる。
上から七色の金平糖を散らせば、それはそれは素敵なドレスに早変わり。
男は被っていた小振りのハットにリボンや薔薇を飾って青年に被せ、軽くキャンディのルージュを塗ってやった。


「…‥国王になったら、なにがしたいですか…?」
「…腹一杯肉食いてぇ。その前になんでドレスなんだ有り得ねぇよ」
「クス…素直な貴方はきっと選ばれる。…さぁ、いってらっしゃい」

軽く背中を押されてパレードの列に加わる。
振り返ってみたが、男の姿はどこにもなかった。





「…ねぇー慶次。めぼしい女がいない」
「美しい2名ってもなぁ…、男爵みたいな髭面に鼻が曲がりそうな香水のケバい女じゃぁたかが知れてるし」
「某いい加減腹が減ったでござる」
「ならばそのへんの草でも毟って食っておけばよかろう」

頬杖をついて大欠伸なのは、前国王の直属だった4人の召使い。
派手なオレンジにガタイのいい大男、口一杯に雑草を詰め込む食いしん坊、そして絶対零度のキツネ顔。
連中が我こそはと張り切れば張り切るほど、彼らのやる気が削がれていく。

「…もういい加減いいんじゃない?慶次が国王で旦那が王妃ね」
「いい加減すぎるだろ!空気読め!」
「慶次に言われたくありませーん」
「ふぉれあひも、もーひらぉれひうお」
「汚いぞ真、田…‥」
「え、なにナリさんどうし、た…」
「………美人、いたね…」
「…………うむっ、!」

あまりの美しさに固まる4人の目線の先には、まだ覚束ない足取りで歩く青年の姿が。
召使いたちは急いで青年を捕まえると、慣れたように椅子まで伸びる赤いカーペットまで導いた。


「…………え、俺?」
「そう、貴方。お名前は?」
「…元、親…‥」
「元親、いい名前だ」
「皆の者よく聞け!只今より新たな王妃様はこちらの元親様に決定した!」

パレードの連中全員が、青年の美しさに眩暈すら覚えて。

「は…、俺王妃?国王じゃなくて?」
「冗談止めてよチカちゃん、ドレス着た国王なんて他国に顔向けできないから」
「チカ、ちゃん?」
「そー、元親でしょ?だからチカちゃん!」

半ば無理矢理、いかにも高級な椅子に座らされる。

「王妃様が元親殿と決まった以上、某らに国王の決定権はありませぬ。どうか列の中から貴方の目で、時期国王を決めてくだされ」
「そんな、急に言われてもなぁ…」


青年、もとい元親を見つめる視線はギラギラと厭らしいものばかり。
誰1人として、身寄りのなかった頃の元親に手を差し伸べてくれた者はいないのに。

「…ここには、いない…」

今更手の平を返したように媚びを売られたところで、誰が好きになどなれるというのか。


「困ったなぁ…、国王が決まらないことにはこのパレードも終わらない」
「元親殿、気になるお相手も居りませぬか?」
「…いない。時期国王は、ここにはいない」
「まったく…強情な王妃よ…、」

うーんと唸る一同。列の真ん中で、キャーッと甲高い女の叫び声がした。


「痴漢よ!私のお尻を触ったわ!」
「Ha?俺じゃねぇよなに間違ってんだブス!!」
「ぶ…っ?!自分じゃないって言ってるヤツが大体犯人なのよ!白状なさい!」
「明らかにお前の真後ろだった小太りのアイツだろって野郎!逃げんな!!」

「騒がしーいねぇー」
「まあ、物凄いスピードで逃げてるあの残念なのが間違いなく犯人だけどね」
「周りも捕まればいいものを…」
「気の毒極まりないでござるな」


未だギャーギャーと言い争っている男と女。
元親は、その男の声を知っていた。



『素直な貴方はきっと選ばれる』



「…佐助…、」
「ん?なぁに?」
「あの男を連れてきてくんねぇか、…‥アイツが時期国王だ」
「………へ?」

一目惚れだったのだ、間違いなく。声をかけられたあの時からきっと。
引っ張り出された黒い燕尾服にはやはり見覚えがあった。


「貴方のお名前は?」

時期国王の紡いだ、その名は。





廻る廻るパレードはますます賑わいをみせて。カラフルなビビッドカラーが目を楽しませる。
祝いの餞にと様々な菓子が宙を舞い、祝福と歓喜の声が後を絶たない。


「良かったんですか、私なんかを王にして」
「アンタじゃなきゃ、選ばなかったよ」
「…愛しています。元親だけを、世界のなにより」
「俺だって愛してる…、アンタだけだ」



政宗。



瞬間、愛おしく塞がれた唇は、やっぱり酷く甘かった。

小さな小さなとある国の、お菓子なお菓子な恋のお話。










甘ぁい貴方に酔いしれて





(この甘さは嫌いじゃない)
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ディ○ニーの短編アニメでお菓子の国の王子様とお姫様を決める的なお話があって、それが好きでパロったらなんか良からぬ方向に進んでしまった。文章無駄に長い。しかし敬語攻め好き。

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あきゅろす。
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