大切なのは気持ちです(現代)
今まで金で手に入らなかった物なんてなにひとつなかった。
金、容姿、経歴、家柄…。どこを取っても完璧だと、自惚れではなく確かな確信があったし、現にそれらをフル活用して欲しい物はすべて手に入れてきた。
そんな百戦錬磨の俺が、欲しくて欲しくて堪らないモノ。
だけどどう頑張っても手に入らないモノ。
「…元親、」
「おはようございます、社長」
かっちり着込んだスーツ姿で俺に挨拶をするコイツは、情報管理部の長曾我部元親。
俺より頭一個分デカい長身にフワフワの銀髪が朝日に反射してて凄ェ綺麗だ。
同じ色の睫毛は惜しげもなく生やされていて、それに守られている碧い瞳に心が洗われるような気さえする。
「いい天気だな、」
「そうっスね!」
「Ah〜…元親、今日時間があれば晩飯でも食いに…」
「あ!社長、玄関ロビーで片倉さんがお待ちですよ!!」
早く行かないと!と急かす姿はとてつもなくcuteなんだが…‥小十郎の野郎あとでシメる。
俺が唯一手に入らなくてヤキモキしているモノとは、まさしく目の前にいる元親のことで。
ウチに入社してきたコイツに一目惚れ、これまで幾度となくアプローチをかけてきたのにすべて玉砕。
正直、俺のなにがいけないのかが分からない。
別に自意識過剰なワケじゃねぇんだ。黙ってても女は寄ってくるし、怒らせた時だって、ゴテゴテしい宝石が散らばったネックレスや腕時計なんてのをひとつ買ってやったらケロッとしやがる。
そんな気分じゃねぇっつっても勝手にケツ振るゲロ女は腐るほどいたし、耳障りな猫なで声も嫌ってくらい聞かされてきた。
この経験があってこの結果。
人間とは思ったよりも複雑らしい。
「それはさぁ竜の旦那ぁ〜、恋愛ってお金でなんとかなるモンじゃないからだよ」
「テメェに言われるとムカつくし見てるだけで腹立つしそのオレンジ頭なんとかしろっつったろ毟るぞ」
「ちょっと冗談に聞こえないから止めてよ?!…っていうか今頭とか関係ないしそもそもコレ地毛だし!!その前にチカちゃんが良くてなんで俺様がダメなのさ納得できません社長」
「そのチカちゃんてのも止めろ。次使ったら死刑な」
「横暴すぎるでしょうよ!!!!」
この派手なオレンジは猿飛以下略。元親と同じ情管部の部門リーダーで、元親の4年先輩にあたる。
仕事の腕はかなりの実力で自分も一目置いてはいるが、なにぶん普段がヘラヘラしているような人間であるので一時期は元親を別の部署に異動させようかと本気で悩んだりもした。
「とにかく、チカちゃんはそこいらの女みたいに尻軽じゃないってコト。少なくともあの子が欲しいのはお金よりも大切で宝石よりも高価な物だと思うよ」
なんだそのナゾナゾ。金より大事で宝石より高価って…土地とかか?と素直に返せば、深い溜息と気の毒そうな視線が返ってきた。
「あのねぇ、今のことそのへんの女と一緒にするなって言ったじゃない。……じゃあ俺様からのスペシャルヒントだよ?」
社長みたいにお金も、地位も、名誉もない人は、どうやって好きな人に『気持ちを伝える』と思う?
走った。成人してからこんなに走ったことはないってくらい走った。
どこへ逃げられるワケでもないだろうが、早く行かなければならないと思った。
やっと分かったんだ、目の覚めるような色とりどりの花束も、職人がどんなに磨き上げて作った宝石も。そこに『気持ち』がなければただの雑草とただの石ころなんだ。
だから元親はいつも困ったように笑っていたのだ。
俺からの贈り物は、金をかけただけの偽物にすぎなかったから。
「元親ああああ!!!!」
「はいいぃっっ!!」
あまりの血相で部署に押し入ったものだから、なにかしたのかと周りが俺と元親を交互に見つめる。
思い切り上擦った声で返事をしてくれた元親も、身に覚えがないらしい。(そりゃそうだ、これは俺の一方的な感情なんだから。)
「……………」
「………社長?」
こんな気持ちは初めてだ。
我慢できずに、公衆の面前で濃厚に口付けて一言。
金も身分も関係ねぇ。俺はアンタを愛してる
(面食らってる連中と、順番がデタラメだと爆笑するオレンジはシカトした)
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眠いです。
気が向いたら加筆修正します。
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