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出会いましょう(現代)
「チカちゃ〜ん!賭け、しない?」
「…………賭け?」


また出た、佐助の『暇潰し』。


佐助は大学で知り合った友達だけど、どうやら性格的に軸が歪んでいるらしい。
ド派手な髪は地毛だと言い張っているがそれすらもどうだか危うい。ムラがないところを見ると本当に地毛なのかもしれないが。

「はぁ、…なんでまた急に、」
「急に思いついたから」
「だから、なんで俺なんだよ?」
「そこにチカちゃんがいたから!」

そんな、「そこに山があるから」みたいなノリで言われても困る。
コイツの賭けって恐ろしいことこの上ないじゃん。今月そんな金ねぇし。


「佐助!元親殿!」
「なに話してんのー?」
「んー?俺とチカちゃんで賭けしよっかって」
「え、なに楽しそう、俺もやりたい!」
「まだやるって決まってねぇよ!つか内容にもよるだろ」

やいのやいの言ってたら、同じく大学の友達の幸村と慶次も割り込んできてますます話が広がってしまった。

「じゃあねぇ、忘れる前にルール説明…つっても今回はチカちゃんが実験台でお試し感覚なノリだからあんま大金は賭けないよ」
「オイ、そんな理不尽なことってあるかよ」


なんで俺だけ、しかも実験台って、なに。


「簡単に言えば、チカちゃんに女装させて出会い系に登録したら何人が引っかかるかっていう賭けなんだけど、」
「待て待て待て待て!!!!」
「もぉー、なに?」
「なにじゃねぇよ!おかしいだろ今の!!」
「凄く画期的じゃない」
「俺 だ け 明らかに損してんだよ!女装なら幸村のほうが確実似合うだろ」
「旦那がやったら完璧に騙されること間違いないじゃん、それじゃ面白くないワケよ」

ふざけんなマジでテメェら金賭けりゃいいだけだからノリノリだけど勝手に話を進められてる俺の身にもなってみろっつか、佐助、なにそのファンシーな化粧ポーチなにが入ってんのって化粧道具ですよねそうですよね、え、鞄からモッサリした毛まで出てきたし、なにその毛ってヅラですよねそうですよね分かります。

「バカ野郎!誰がやるかンなモン!わ、こら離せ慶次!空気読め畜生幸村も団子食ってねぇで助けろ…!ちょ、‥助けてえぇぇー!!!!」





「…さっすが俺…」
「スゲェな…、普通に美人な姉ちゃんじゃん…」
「元親殿!大変お美しゅうございまするぞ…!!」

「………嬉しくねぇよ………」

無理矢理やられた化粧は佐助が好きそうな感じの、ちょっと夜蝶的なアレだ。
目蓋に引っ付けられた睫毛に慣れなくて目がシパシパする。コレ何個付けてんの睫毛、超絶デカ目なんだけど。
ベタベタに塗られたグロスはギトギトにテカってて気持ち悪い。地が白いからとファンデーションを免除されただけまだマシか。

「もっとカマっぽくなるかと思ってたけど案外普通だねぇ」
「お前失礼だなさっきから」
「首から上だけ撮った写メなら楽々騙せそうじゃん!」
「ふぉれぁおーひりひはいれひほーれあぅ!」
「…分かんねぇよなに言ってんだよ」
「でもさー、これじゃちょっとチカちゃんが可哀相だからルール変更ね」


俺たちが1人5千円ずつチカちゃんに賭ける。登録したサイトで野郎からのメールが50通以上きたら、チカちゃんの一人勝ち、1万5千円手に入る。
50通に満たない場合や、女装がバレた場合、チカちゃんが途中棄権したりしちゃった時は、この賭けはチャラ。チカちゃんの儲けはなし。


「…どう?やる?」

……‥そりゃあもう、貧乏アルバイターな大学生に1万5千円は魅力的すぎるでしょうが。

「じゃあ、今から登録して、明日のこの時間までに何通くるかで勝負ね!当たり前だけど、自分から送るのはナシで。あくまで受信した数だから!」
「それなら不正な料金も発生しないだろうし大丈夫だね!」
「まぁ、女性会員は無料だからあまり関係ないけどね〜」

あとはチカちゃんのアピール能力にかかってるかなーなんて、まんまと乗せられた俺も大概バカだ。



とりあえずリミットが翌日なので早々に登録した。

出会い系とか初めてだし滅茶苦茶怖いけど。
プロフィールなんかは差し障りない感じに、ドライブやお洒落なカフェでお茶するのが趣味とか書いておく。
佐助に撮られた、上目気味の女装写メも忘れずに添付して。コレが俺の顔だと思うと吐き気も催すが果たして上手く騙せるのか否か。


「……て、ものの30分で結構な受信量じゃねぇか…」

さっきからひっきりなしに携帯が光ってメールの受信を主張してる。無料だし未開封なのもアレなんで見るだけ見とく、が、やはり期待を裏切らない感じの残念なオッサンばかりだ。
ほとんどはメールから仲良くとか金銭的に支援したいとかドライブ行きたいとかだけど、中には性奴隷になってとかオナ写メくれとかいう必死な感じの内容もあった。うぇ。


その中で見つけた、一際若い年齢の男。


20代前半って俺とあまり変わんないんじゃねぇかなとか。名前は政宗っていうらしい。
お洒落とシルバーアクセが好きで会社経営してるんだってさ、どこまでホントか分かんねぇけど全部ホントだったらスゲェな。つかそんなだったらわざわざ出会い系とかしなくてもよくね?
写メも添付されてたからどんなブサイクだって見てみたらビックリも余裕で通り越すくらいの美形でしたとさ。…‥うん、なんか、もう深夜だし、寝るわ。


電源切って現実逃避。
アレは違う。芸能人の画像を悪用してるに違いない。





「チカちゃん昨日どうだった?」
「ふふ…聞いて驚けテメェら」

ドーンと掲げたメールBOXの凄まじいことときたら。

「…182通…」
「すご!」
「不正なしでコレ?!」
「ったりめェだろ!現に送信BOXゼロじゃん」
「賭けはチカちゃんの勝ちかぁ〜…‥あれ?この保護メール1ってなに?」
「あぁー、それな、」


昨晩の政宗ってヤツがどうも気になって保護しておいたメール。
他のヤツらは大抵何度も返事の催促をしてくるのに、そいつだけはこの1度きりだった。

「なんかオッサンに交じって超男前からメールがきてたから記念に取っといた」
「わ、ホントだホストみたい」
「会社経営してるらしい」
「明らかに釣りじゃん!」
「芸能人の方かと思ったでござる…」
「あ、やっぱり?業者だよな、どう見ても」

本人なら、少しだけ会ってみたい気もしたけど。


「…じゃあさ、確かめてみる?」
「……………へ、?」

そしてまた、佐助の『暇潰し』に巻き込まれる、俺。

「このサイトで会う約束して、会ってもバレなかったら1人1万ずつ」
「まずバレるだろ、アホか」
「まぁバレるだろうね、だから1万ずつとか大見得張ったんだけど。でもほら、ゴリラ女とか地声低い女もいるし、チカちゃん筋肉だけど割と華奢だから頑張ったら平気かもよ?」
「お前この間から俺に対して失礼すぎやしないか」
「デート当日には俺らも尾行しなきゃな!」
「先ずこの方が本人かすら怪しいものがあるが…」



そんなん、俺が一番危険で犯罪に近い距離にいるんじゃん。どうすんだよバレて運営側から多額の賠償請求とかされたら。

「嫌なら別にいいよ?1万5千円はチカちゃんの儲けなんだし、もう3万なんてなくったって……‥ねぇ?」
「「ねぇー?」」
「ぐ、…‥っ、やります…」



嗚呼、あっさり3万円に負けちゃいました。










グッバイ自制心。それから自尊心





(ホントはちょっとだけ楽しみだったり)
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なんか長くなったし全然伊達親じゃないしなんか続きそうだし。
続編はありません今のところは。

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