涙は止まない雨になる(戦国)
雨が降る。
重たい雲は向こうの山の空まで包み込んで、ただひたすらに止まない雨を打ちつけて。
雨の戦場は最悪だ。泥濘に足をとられるし、忍の鼻も利かないし。僅かな物音は、雨音で掻き消される。
遠くで刀の交じる音。銃声。叫び声。
強者たちは、家族のため、友のため、国のため、そして俺のために、その尊い命ですら犠牲にして。
無意味ではなく名誉ある死だと。平和の下に、殺し合う。
「…だから、俺ァ…っ、ンな、とこで‥寝てちゃ、っけねぇ…だよ、…」
軍の大将がこの様では敗北も目前だが、赤黒い水溜まりは自分を中心にどこまでも広がる。
止めようにも止まらない、鼓動と比例して噴き出す、朱。雨は、鉄の臭いまでは消してくれなくて。
「………、………、」
ただただ、君に逢いたかった。
こんな時に女々しいと、君は笑うだろうか。
口を開けば溢れる朱に吐き気すら消えて、それでも。
何度も何度も、君を叫んだ。
最期に妻の名も子の名も綴ることなく、お前ばかりを刻むこの口を嘲笑ってくれ。
そして叶うならどうか、もう一度だけその唇で俺に触れて。
容赦ない雨は強さを増して。意地汚い雑草根性が、まだ生き延びようと浅い呼吸を繰り返す。
首だけは取られてなるものかと、こうして朦朧とする意識を途切れるまで泳がせて。
なぁ、寒い。寒いよ。
落ちてくる雫が、流れる朱が、俺の体温を奪って仕方がないんだ。
それでも今、お前と分け合った温度を思い出す俺は最早末期なのだろうな。
「 」
君の声が、聴こえた。
「…!!いたぞ!敵軍の大将だ!!」
もう、動けない。
その日、大将の首は飛んだ。
幾夜も幾夜も雨が降る。
重たい雲は向こうの山の空まで包み込んで。
ただひたすらに、止まない雨を打ちつけて。
君と平和を見たかった
(もう、逢えないよ)
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正直スランプ。
大将は誰でも好きな人でお願いします。
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