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医呪師の娘
5

「確かに、仰る通りです…。ここに至るまでにもいくつか街を見てきましたが、この街の様子はかなり酷い。」

神父の悲痛な忠告に、神妙な面持ちでガイアーは頷いた。

「しかしながら、神父様……」

数十センチ高い所から、さぞ人の良さそうな笑みを湛えた灰緑の瞳が、頭の白い神父の瞳を真芯で捉える。

「私は、この恐るべき病を葬り去る事を生業としながら、日々旅をしております。私は今まで訪れた土地で、同じ病で苦しんでいる多くの患者を見てきました。」

なんと、と感嘆の声を上げた神父の聲さえ無視をして、あまりの心苦しさに心が張り裂けそうだという顔をしながら、ガイアーはまるで歌劇の様に高らかに述べる。

「私の使命は、この病に苦しむ人々を救う事。嗚呼どうか、神父様のお許しがあれば、この街の人々をお救いする手助けがしたいのですが。」

真摯な瞳でそう告げる男の志に震え、神父は今までのどんな祈りも霞むほどに、心の底から、神に感謝するより他なかった。

――ああ、主よ。この不毛の地に、貴方の御子を遣わせて下さった事を心より感謝いたします。

無慈悲なこの世界で、この男は救世主なのだと、敬虔な神父は信じて疑わなかった。

「ああ、なんと尊い精神の持ち主だ。神も貴方の行いをきっと、讃えているに違いありません。教会では、今大勢の人々が苦しんでいます。正直な所、最早我々の手には負えないのです。どうか、貴方のその高潔な魂を、我々にも分け与えて戴きたい」

一変した神父の切実な申し出に、ガイアーは唇を綻ばせ、優しく微笑み返した。ガラスで出来た眼鏡の奥が鈍く光りを増す。

「ええ、もちろんですとも。私などで宜しければ、僭越ながら人々の救済に全力を尽くさせて頂きたいと思います。」

ありがとう、ありがとう。喜びも露わに神父はガイアーの両手を強く握り返した。

 いつの間にか日はすっかりと沈み、暗闇にぼうと浮かび上がる教会の影。木に集まっていた烏の姿は遠い空へと消えた。

驢馬を連れていた男も、棺を埋めていた男も最早いない。ただそこにあるのは無数の墓と埋葬する場所のない棺、そして神父と男だけだった。



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