痛みと嘆きの塔
7
次の日の朝、非常に心配ではあったが、体調の悪い弟を家に残し、兄は一人森へと向かった。弟には、薬草を採ってくると告げ、鞄には食料と水とナイフを詰めて、兄は家の扉を開いた。
無理に体を起こし、青白い顔で、気をつけてと微笑んで言った弟を、兄は絶対に死なせはしないと心に誓った。
視界の悪い闇、鬱蒼と茂る木々は、容赦無く青年の足元を掬う。目の前に立ち塞がる物をナイフで切り裂き、何度意思が砕けようとも、何度でも立ち上がり、青年は禁忌の塔を目指す。
どれだけ進もうとも、見えるのは同じ緑の姿。無情にも日はどんどんと傾き、いつの間にか沈み逝く太陽は世界を黄昏へと染め変えていた。
夕暮れの空を鳥達が群れを成し、鳴きながら巣へと飛び帰るのが見える。時間がないのは嫌でも分かっている。
それでもこんな所で諦め引き返す訳にはいかなかった。
痛みに引きずる足には無数の傷、食料と水は底を尽き、体力は限界。そしてもうすぐ、獣の統べる夜が来る。
弟は今頃どうしているだろう……。また小さな体を震わせ、1人痛みに耐えているのだろうか。
胸に掛けたペンダントをしっかりと握り締める。塔を見つけるまで絶対に帰らない、帰れない。
それでも、この広い森の中、本当にあるかも解らぬ塔を探す事に疲れ、途方に暮れていた。
立ち尽くし、暗闇の中見上げれば、いつしか眼の前には、森にあまりにそぐわぬ大きな建造物の影。
黒く、高く、天に向かって聳え立つ塔。それは間違いなく自分の望んだ物の姿。
闇の中にぼんやりと、浮き上がる様にして見えるそれに向かい、兄は駆けだした。
わずかな煌めきを胸に抱き走ったのは数刻程。日は完全に沈み、いつの間にか空には月が昇っている。夜の森に浮かぶ塔は、まるで空を支える黒い柱のようだった。
塔に蔓延る茨を掻き分け、青年はその扉に手を掛けた。
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